Column

2021年1月31日
甲斐バンド杯 八王子マラソン大会
〜コメツキ虫に呪われた夜


年明けから、ほぼ(ブラジル)、
リモートワークです。

そういえば47年前に
かぐや姫が
リモートの歌を歌ってましたね。

♬リモートよ〜
♬ふすま一枚〜隔てて今〜
♬小さな〜寝息を立ててる
♬リモートよ〜

ちなみに内藤やす子のデビュー曲は
「オトートよ」。

知らない若者は無視していきます。

私の場合、
テレワークは何十年も前から
ずっと続けています。

極度の恥ずかしがり屋なので。

どんな仕事も恥ずかしがりながら
していました。

テレワークの先駆です。

分からない人は無視していきます。


在宅勤務。
業種・業態にもよりますけど
ネット環境の整備が絶対条件。

今だからできますけど、
20〜30年前だったら無理でしたよね。

在宅勤務ではなく「休暇」に
ならざるを得なかったでしょう。

憂鬱なコロナ感染拡大ですが、
ICTが発達していたことだけは
せめてもの救いでしょうね。


2年前のコラムで、
携帯もネットもなく、
情報の発信・入手・伝達手段が
困難だった時代のエピソードとして
「黒電話と青春」
「待ち合わせと青春」
を書きましたが、
もうひとつ、思い出しました。
久しぶりに同様のタッチでいざ候。



タイトル:
甲斐バンド杯 八王子マラソン大会
〜コメツキ虫に呪われた夜

登場人物:
バスケ部トリオ(私, K, Y)、テニス部S

高校2年、7月の土曜日のこと。

その日は、待ちに待った
甲斐バンドのライブ。
会場:八王子市民会館。
開演:18:30

高校時代は真面目に
部活動をしていたので、
なかなか甲斐バンドの
首都圏開催ライブも
日程調整がつかずに断念していたけど
この日は土曜日開催。
ようやく巡り合った。

昨年末の武道館以来
7ヶ月ぶりで、朝から興奮状態。

一緒に行く、メンバーは、
同じバスケ部のK(キャプテン)とY、
テニス部のS。

学校で顔を合わせても
あえてその話題には触れず、
くるべく爆発の瞬間を待っていた。

所沢にある学校から
八王子市民会館までは1時間半ほど。
17:10分の電車に乗ればなんとか
ギリギリ間に合う。

土曜の部活は通常
13:30〜17:00。

キャプテンのKが少し気を利かして
10分前に終了してくれれば、
予定の電車にも十分間に合う。

ところが、である。

このキャプテンKは、
キャプテンとしての責任感というか
後輩に公私混同を悟られないためか、
私が途中「時間、時間」と
目配せしても、完全無視。

きっちり17時までやるではないか。

こうして、
「甲斐バンド杯 八王子マラソン大会」
の号砲が鳴った。

学校から駅まで徒歩15分。

大急ぎで着替えて、
学校を出たのが17:05分。
Sは既に校門のところで
我々バスケ部3人を待っていた。

いくら4人が体育会系とはいえ、
かなり厳しい時間だ。

夏の猛暑の中、
3時間半の部活を終えた4人は
駅まで部活の時以上のダッシュで
走り続けた。

ギリギリのところで駅についた。
ところがYは自転車通学のため、
切符を買わないといけない。

3人が先にホーム降りたと同時に
電車が入ってきた。

Yはまだ階段を降りてくるところだ。
3人は発車しないように、
開いたドアに足だけ乗せて、
Yに急げと叫ぶ。

せっかちな発車のベルが鳴り終わる時、
間一髪でYも飛び乗った。


ふ〜。


と、ひと息の後、あることに気付く。

冷房車じゃない!
(当時はけっこうあったんです)

嘘だろ!

4人はしばし無言のまま、
フロアに汗を落とし続けた。

ドタバタの末、八王子駅に到着。
しかし、本当のドタバタ劇は
ここから始まった。

現在、八王子市民会館は
駅前に移転しているが、
当時は徒歩15分のところにあった。

八王子駅の改札を抜けたのが18:30。
だいたい開演は定刻より
10分位遅れるとはいえ
だらだら歩いていく余裕はない。

何よりライブというのは
オープニングが最も
興奮する瞬間である。

八高線でエネルギーを回復した4人は
ここからまた猛ダッシュ。

タクシーに乗るという
発想に至らなかったのは
今思えば不思議だ。

走っている途中、
人の流れの様子が
おかしいことに気づく。

「人が逆流してないか」
息を切らしながらKが言った。

確かにその人の数は、
イベント終演後のようだった。

「当日券に外れた人たちだろう」と私。
「そうか」とK。

どう考えてもそんなレベルの
数ではなかったが、
4人はそれ以上のことは考えず、
ひたすら会場へと走り続けた。

途中すれ違う人が
走る4人に「お気の毒」と
呟いたような気がした。

会場まで残り数十メートルまで行くと
拡声器からのアナウンスが響いてきた。
その時はよく聞き取れなかったが、
なんとなく良かならぬアナウンスで
あることだけは察しがついた。

会場につき、あらためてアナウンスに
耳を傾けた。


「甲斐よしひろ氏、急病のため、本日の公演は中止になりました」


ズド〜ン

茫然と立ちすくむ4人。
しばらくして膝から崩れ落ちた。

息切れも動揺もおさまった頃、
猛烈な喉の渇きに気づく。

4人は近くの自動販売機で
それぞれ5本の清涼飲料を
一気に飲み干した。

少しだけ正気を取り戻したが、
さすがに疲れ果て、声も失っていた。

「仕方ない。ご飯でも食べて帰ろう」

4人は肩を落としながら駅に引き返し
カレー屋に入った。

メニューを待っている時、
Yの白いワイシャツの二の腕部分に
黒い虫がたかっているのに気づく。

「なんか虫ついてるよ」
「ほんとだ」
「それコメツキ虫じゃない?」
「珍しいね」

その時点で私の腹筋はざわついていた。

Yはコメツキ虫を指で弾いた。

その瞬間、コメツキ虫は大量のフンを
Yの袖にかけて床に落ちた。

「ふざけんなよ」とY。

普段なら「でっ?」というくらい
なんのオチもないそれだけの話である。

ただ、心身ともに疲れ果て、
思考を失っていた4人のツボに
ハマりにハマった。

コメツキ虫そのものが
おかしかったのではなく
怒涛のドタバタ劇の
すべてを笑い飛ばすきっかけとして
コメツキ虫のフンかけの破壊力は
充分すぎた。

ハエや蚊、カナブンでもなく
コメツキ虫という意外性。

こうなるとまだ多感な高校生だ。
笑いが止まらない。
1時間近く4人は疲れを忘れ、
涙しながら笑い続けた。


「甲斐バンド杯 八王子マラソン大会」

−完−


この歳になると、この時のような
愛想も気遣いも一切ない、
腹筋を震わせ涙しながらの抱腹は
滅多になくなります。

若いって素晴らしいですね。

疲れ知らずのエネルギーはもちろん
缶ジュースを一気に5本飲み干す胃袋、
30数年前の話なのに、
日記のようなレベルで
覚えているピュアさ。


今の時代だったら、
サイトやSNSで事前に公演延期など
知り得たことです。

でもね、それでは
こんな愛おしいエピソードも
生まれなかったでしょう。

苦痛の分量分、
記憶と思い出も鮮明になるものです。

便利が過ぎるのも考えものです。

ではでは。