ベスト4出そろう
1978年1月13日。ベスト4が出そろった。
第55回全国高校女子バスケットボール大会は、戦前の予想通り、中三高校(秋田県)、春一番高校(東京)、桃色学園(静岡)、元祖高校(大分)が順当に勝ち上がった。
明日の第一試合で春一番高校と元祖高校が、第二試合で中三高校と桃色学園が決勝進出をかけて激突する。
ここ数年、アイドル顔負けの容姿と実力を兼ね備えた選手が次々と登場し、その人気は高校野球以上といわれている高校女子バスケットボール。今大会は1回戦から決勝まで、注目のカードを中心に20試合、地上波による放送が組まれている。
ベスト4には、大会前からの注目選手が在籍する4校が残り、その加熱ぶりはピークに達しようとしていた。
ベスト4に残った4校のプロフィール
中三高校(秋田県/県立)
出場回数:3年連続5回目
53回大会年ベスト8、前回大会優勝。今大会も優勝候補筆頭で連覇を狙う。注目は、1年生からレギュラーで活躍する桜田、山口、森の3人。得点感覚に優れたキャプテンの桜田、冷静沈着なオールラウンダー山口、安定したゲームメイクが光る森。中三トリオと呼ばれるこの3人のプレーは最終学年になってさらに完成度を増している。また、キャプテンの桜田は抜群の容姿とスタイルを誇り、試合会場は桜田目当ての男子学生で満員になる。
監督:阿久
部員数:32名
元祖高校(大分/県立)
出場回数:6年連続13回目
高校女子バスケ界の名門。53回大会では、1年生だった天地、麻丘、南の活躍で4回目の全国制覇を果たしている。昨年は準決勝で中三高校に惜敗。3年生になった天地、麻丘、南は打倒中三高校を掲げ、今年もベスト4まで勝ち上がってきた。しかし、3人に昨年までのキレはなく、53回大会時の強さは影を潜めている。特に2年前、高校女子バスケブームに火をつけた天地の不調は深刻。噂によるとテニス部の彼氏にうつつを抜かし、朝練をさぼり、毎朝白い朝靄が残る木立の中のテニスコートで彼氏を待っているらしい。練習不足によるウエイトオーバーは明らかである。
監督:篠山
部員数:51名
春一番高校(西東京/私立)
出場回数:7年ぶり4回目
48回大会ベスト16。小柄ながら高度な技術とセンスを誇る伊藤、田中、藤村が入部して3年目。レギュラーに定着した3人の活躍により、7年ぶりの出場を果たす。1戦ごとに力をつけ、初のベスト4に進出。昨年夏からポイントガードを田中から伊藤に変更してから、チームのバランスが飛躍的に向上したことも躍進の要因。小悪魔的な伊藤、ポッチャリ系美人・田中、正統派美人の藤村の人気は急上昇。その人気は中三高校の桜田を凌ぎ、親衛隊まで結成されている。
監督:森田
部員数:40名
桃色学園(静岡/私立)
出場回数:初出場
根本、増田の2枚看板を擁し、今大会最も勢いに乗っている。1回戦登場時には酷評をかった派手なピンク色のユニフォームも、勝ち進むにつれ、今やバスケ少女たち憧れの的。ピンク旋風を巻き起こしている。根本の激しく躍り舞うようなドリブルとカットイン、増田のサウスポーからくり出す正確無比なシュートは他校にとって脅威。この二人でチーム全得点の8割をたたき出している。中三高校との準決勝が事実上の決勝戦との声が多い。
監督:都倉
部員数:28名
明日の対戦を控え、それぞれの宿舎で、彼女たちは勝利のシナリオを描いていた。
ちなみに本日、女子に先行して男子の準決勝が行なわれた。
イケメン選手が多数在籍し注目を集めた御三家高校は、キャプテン・郷の不調もあり2回戦で敗退。玄人好みの実力派チームが残った。第一試合の「アリス学園」×「ツイスト高校」は、アリス学園キャプテンの谷村が終了間際に劇的なブザービーターを決め決勝進出。
第二試合の「後醍醐ハイスクール」×「安奈高校」は、戦前の予想を覆し、安奈高校のエース甲斐が43得点12リバウンドと大爆発。一躍大会のヒーローに躍り出る活躍を見せ、優勝候補の後醍醐ハイスクールを撃破し、決勝にコマを進めた。
中三高校、絶体絶命。
準決勝前夜——。
人気音楽番組を見ながら宿舎の食堂で、つかの間の休息をとっていた中三高校部員。
「みんなテレビの前に集まってくれ」
阿久がしゃがれ声とともに、大きな段ボール箱を抱えて食堂に入ってきた。
和やかな空気は一変した。
阿久が段ボール箱から取り出した得体の知れない黒い箱型の機械に部員たちの視線が集まる。
「先生、その機械、なんですか?」
質問をしたのは中三トリオの中ではもっとも小柄な森だった。
「先生じゃないだろ。授業中以外は監督と呼べ」
「すみません」
森の頬がわずかに紅潮した。
阿久は森のクラスの担任でもある。森が阿久に対してほのかな恋心を抱いていることは、ほとんどの部員がうすうす感づいている。
先日も、傘に隠れて桟橋で、阿久を一人見つめて泣いている姿を後輩部員が目撃していた。森が小柄ながらもレギュラーで活躍している原動力は、阿久に褒められたいという一途な思いに他ならない。
「これはビデオデッキといって、テレビ番組が録画・再生できる機械だ。まだ一部のマニアしか持っていないが、数年後には一般家庭にも普及するだろう。みんながいつも聞いているカセットテープの映像版だと思ってくれればいい。我々の遠征費用だけでかなりの予算を使っているにもかかわらず、学校側が対戦校分析のために購入してくれた。準々決勝「桃色学園」×「木綿高校」の試合がこのテープに収められている。今からじっくりその試合を観てもらう。特に、根本と増田の動きに注目だ」
阿久の話を聞いた部員たちは、ビデオデッキに興味津々といった様子だ。阿久は説明書を読みながらテレビに接続し、テープをビデオデッキに挿入。静かな緊張感が張りつめる中、再生ボタンを押すと、真っ黒だった画面に「桃色学園」×「木綿高校」の映像が映し出された。
阿久がタイムアウトやCM部分は起用に早送りボタンを押しながら、ポイントになるところはリプレイし、解説を交えていた。試合そのものは一方的な展開だった。
前半を終えて52-22。中三高校部員は根本と増田の圧倒的な攻撃力を目の当たりにし、自信も揺らぎかけていた。面白いようにリングに吸い込まれていく二人のシュートを押し黙ったまま見つめていた。それは阿久も同じだった。
『まともに戦ったら勝算はない。何とかこのモンスター二人を止める術は無いか』
答えが見出せないまま録画では後半が始まっていた(当時は前後半20分制)。
「あっ」と山口が声を上げた。
「ちょっとまってください。いまのところプレイバックしてください。」
阿久が巻き戻しボタンを押した。
「そこ、止めてください」
そこには木綿高校キャプテン太田の表情がクローズアップされていた。
「太田さんがあっさりとドリブルで抜かれた後の表情です。」
マークについていた太田は高校全日本候補で特にディフェンスには定評がある選手だ。その太田があっさりと抜かれ苦笑いを浮かべている。 山口の言葉を受け桜田が神妙な声で続いた。テープは停止されている。
「昨年夏の高校総体、太田さんのマークにあった私は、ほとんど自分のプレーができなかった。私が対戦してきた中でもディフェンス力は一番だったかもしれない。とにかくフットワークが良い上に間合いも絶妙で、どんなフェイクも通用しなかった。今のテープの映像を観る限り、太田さんはしっかりマークしたつもりだったのに、あっさり抜かれた。まるで透明人間に抜かれたかのように。」
「前半からなんとか食らいつこうとしていたけど、さすがにお手上げって感じ。太田さんの諦めに近い表情が根本の異次元ぶりを物語っている」
と山口が付け加えた。
その後、試合終了まで全員が押し黙ったまま、録画映像を見つめていた。
阿久が努めて冷静に言葉を切り出した。
「根本の技術とスピードは、男子レベルだ。」
阿久の声に部員たちの反応はなかった。ただでさえ厳しい戦いを予想していたところに、高校全日本候補の太田をあしらった根本の破壊的な攻撃力を観てしまったのだから無理もない。
中三高校、絶体絶命…。
しばしの重苦しい沈黙を破って桜田が監督に聞いた。
「監督、明日のディフェンスはマンツーマンですか、ゾーンですか。マンツーマンの場合、根本さんと増田さんのマークにつくのは誰ですか」
「明日はマンツーマンでいく。根本のマークは山口、増田は桜田だ。ただし、根本を40分間厳しくマークし続けるのは相当に体力を消耗するだろう。一方、増田は比較的動きが少ないので、体力的には桜田の方が楽だ。山口はディフェンスでの負荷が大きく、オフェンス面で期待するのは難しい。オフェンスは桜田次第ということだ」
桜田は阿久が見出した逸材であり、そのセンスは超高校級だ。得点力が落ちたと言われているが、それは山口の成長により、自分が無理をしなくても山口を活かすことでチームの得点力が上がることを理解したに過ぎない。しかし、明日の山口はディフェンスに専念してもらわざるを得ないだろう。
ストップ・ザ・モンスター
準決勝当日。代々木第二体育館…。
会場は超満員に膨れ上がり、会場はアイドルコンサートのような盛り上がりを見せていた。
第一試合の「春一番高校」と「元祖高校」の試合が始まった。
中三高校部員は、前半だけこの試合をスタンドから観戦することにした。後半はウォーミングアップのため観ることはできない。しかし、中三高校部員に明日の決勝相手を研究する気持ちの余裕はなかった。頭の中は、桃色学園の攻撃をいかに止めるか、それだけだった。
昨夜は桜田をはじめ山口も寝付きが悪かった。能天気な森さえも「ヒュ〜ルリ〜」という奇妙な寝言を言ってうなされていたと、森と同部屋だった後輩から聞いた。
予想通り、第一試合は春一番高校が優勢に試合を進めていた。
元祖高校のエース天地は、前半10分を過ぎた頃にはすでに息が上がり、シュートの精度を欠いていた。一方、春一番高校は伊藤、田中、藤村の見事なパスワークで元祖高校を翻弄。じわじわと点差を広げていった。
「間違いない。この試合は春一番高校の勝ちだ」
阿久のこの言葉を合図に、中三高校部員は観覧席を立ち、アップに向かった。
第一試合が終了した。
86-53で春一番高校が決勝進出を決めた。最後の10分は伊藤と田中をベンチに下げて温存するという余裕の勝利だった。 春一番高校への挑戦権をかけた準決勝第二試合、「中三高校」と「桃色学園」の試合開始まで、あと20分に迫っていた。
阿久はベンチで試合前のシュート練習に励んでいる選手たちを見つめながら考えていた。
阿久が見出した桜田と森、そして当初は目立たない選手だったが、今や実質的なエースといってもおかしくないほどに急成長した山口。今日の準決勝がこの中三トリオの最後の試合となってしまうのか。いや、何としてでも彼女たちを日本一にしなくてはならない。私を「高校女子バスケ界の名将」と言われるまでに育ててくれたのは彼女たちだ。日本一にすることが彼女たちへの恩返しでもある。
阿久は心を決めた。彼女たちを信じることだ。彼女たちは1年生の時から全国大会の舞台を数多く踏んでいる。桃色学園とは経験に大きな差があるのだ。しかも桃色学園はここまでの試合、すべて一方的な点差で勝ち上がっている。接戦に持ち込めば必ず焦りが生じるだろう。彼女たちもそれは理解しているはずだ。
最後のショート練習を終えた部員たちがベンチ前に整列した。阿久は短く言った。
「いつも通り、冷静に、浮き足立つことなくプレーしろ。根本と増田以外、桃色学園はオフェンスもディフェンスも中学生レベルだ。二人のリズムさえ狂わせれば並のチームになる」
それだけを告げ、スターター5人をコートに送り出した。
ジャンプボールには中三高校が桜田、桃色学園は増田が立った。桃色学園はマークの確認をしていない。どうやらこの試合も木綿高校戦同様、ツー・ワン・ツーのゾーンディフェンスでくるようだ。
注目の準決勝第二試合が始まった。
ジャンプボールは桜田がタッチしたが、ボールは根本の手に収まった。中三は素早く相手マークを確認し、マンツーマンのディフェンスを整えた。
「ハンズアップ」と桜田が声をかけたと同時に、早くも根本が見事なドリブルカットインで山口を抜き去り、簡単にレイアップシュートを決めた。開始わずか5秒のことであった。
「速い…」山口が思わず声を漏らした。
「女子のスピードではない…」と桜田。
根本は開始直後からギア全快できている。一気に引き離し、早々に勝負を付けてしまおうという作戦だろう。
中三高校のガードの森は、相手のペースに巻き込まれないよう、意識的にゆっくりとしたリズムでフロントコートへボールを進め、ポイントガードの山口へ回した。山口はそこで一度シュートのフェイクを入れ、バウンズパスでセンターの倉田にパス。そこに桃色学園増田が一瞬引きつけられた。倉田はそこを見逃さずに、フォワードの桜田へボールを送った。このインサイドアウトが中三高校オフェンスの基本形だ。ボールを受けた桜田は迷わずミドルレンジからシュートを放った。
バスケットボールでは、試合最初のシュートタッチが極めて重要である。そのタッチが悪いと最後まで波に乗れないことが多い。
桜田のシュートはノータッチでリングに吸い込まれた。
『大丈夫。今日はいける。増田さんのディフェンスも甘い』
桜田はオフェンスに手応えを感じた。それは自分のシュートタッチだけではない。阿久が言った通り、倉田にあっさりとポジションを取られた相手センタープレーヤーをはじめ、桃色学園のディフェンスは全国レベルではないと確信したからだ。
しかし、根本の勢いは止まらなかった。山口は根本に次々とゴール下に切り込まれ連続3ゴールを許した。
中三高校も倉田がファールをもらい、フリースローを2本ともしっかりと決め、食らいつく。
桃色学園の攻撃はまた根本にボールが渡った。そこで桜田は根本のダブルチームにいった。一度根本を止めておかないと流れが変わらないと判断したからだ。
根本はそれを見透かしたようにフリーになった増田へパス。増田はあっさりとスリーポイントシュートを沈めた(〈注〉当時スリーポイントルールはなかった。正式には’84年から)。
前半4分、中三高校は15-4と早くも11点差をつけられた。
ここで阿久は早めに最初のタイムアウトをとった。
「監督、根本さんのスピードは想像以上です。一人では止められません」
阿久が口を開く前に桜田が言った。
「分かっている。だが勝手に桜田はダブルチームにいくな。増田がフリーになる」
阿久は努めて冷静に返した。
「しかし、それでは根本さんに、いいようにやられてしまいます」
桜田も引かない。
「おまえは山口が信じられないのか。大丈夫だ。根本はそのうち山口が止める。とにかく、桜田は増田を絶対にフリーにしないことだけに専念しろ。二枚看板の一人だけでも潰しておけば、相手の力は半減する」
阿久の物分かりの悪い子供を諭すような物言いに、「わかりました」と桜田は渋々返事をした。阿久は続けた。
「それからオフェンスは桜田にボールを集めろ。そして桜田はディフェンスが甘い増田のサイドからどんどん仕掛けてファールを誘え。ファールが増えればさらにマークが甘くなる。大丈夫だ。バスケットはチーム競技だ。二人だけの力で勝てるものではない。いいか。焦るな。何度も言うが根本と増田以外は中学生レベルだ。普段通りにやれば必ず勝てる」
しかし、タイムアウト後も根本の勢いは続いた。カットインで切り込み、ショートレンジから確実にシュートを決めいった。 桜田は山口のディフェンスに不満を抱きはじめていた。確かに根本のスピードは想像以上だ。とはいえ、山口のディフェンスはあまりにも淡白に見えたからだ。
前半残り3分のところで、根本は既に24得点。しかし、増田は桜田が徹底的にマークし、5得点に抑えている。3ポイントも開始早々の1本以降、決めさせていない。
中三高校も桜田が14得点をあげるなど、37対27、なんとか10点差をキープしていた。
追いかけて、桃色学園。
前半終了間際に桜田が強引にシュートを決め、39-29と10点差で折り返すことになった。10点差以内で折り返せたのは中三高校にとっては大きい。桃色学園にとっては想定外の点差だっただろう。後半にかかるプレッシャーは大きくなる。
ハーフタイム…中三高校ロッカールーム。(注:当時は4クォーター制ではなく、前後半20分制)
「いいぞ。10点差は上出来だ。相手はダブルスコアぐらいをイメージしていたはずだ。増田が機能していないことで、だいぶ焦りを感じていることだろう。事実、桜田のマークに増田はかなりフラストレーションがたまり、自分のリズムでシュートが打てていない。ファールもすでに3つ。桜田はさらに攻めやすくなるだろう。増田に対しては後半も指示は同じだ」
桜田は阿久の指示を上の空で聞いていた。山口のディフェンスが気になってならない。
「どこか悪いの?」
桜田は山口に聞いた。
「どこも悪くないわ」
「ディフェンスの動きが悪いように見えるんだけど」
「ごめんね。ちょっとやられすぎた。でも、開始早々に抜かれたときに思ったの。もし、あの後ムキになって彼女のカットインを止めにいっていたら、今頃「5ファール」で退場になっていたと思う」
「じゃあ、なす術無しってこと」
「私もただ黙って抜かれていたわけじゃない。あなたの調子がよくて、離されずにきていたから、後半に勝負をかけようと思ったの。だから、前半は根本さんの動きをじっくり観察させもらったわ。おかげで前半残り5分くらいに気づいたので。根本さんの“クセ”」
「クセ〜? 私の足の臭い?」
「そう。そう。なんちゃって。根本さんのクセのこと。カットインのパターンは2つしかないの。パスを受けたあと、一旦私から離れるようにゆっくりドリブルをし始めたときは、一度右に肩を入れてから左に抜いてくるの。それがひとつ目のパターン。もうひとつは、比較的ゴールに近いところでパスを受けたときは、ドリブルをしないで私との距離を測るの。そして、私が少し距離を詰めると抜きにくるんだけど、それは右、左と交互にフェイクを入れ、必ず右から抜いてくるの。だから、後半はこっちからディフェンスで仕掛けてみるわ」
桜田はあらためて山口の冷静さに脱帽した。
「山口を信じろ。必ず根本を止める、と言っただろ」
阿久が声を落として言った。
「監督も分かっていたんですか」
「ああ。立て続けに3本くらい、簡単に抜かれたのを見た時に気づいたよ。いたずらにファールを増やすよりは、しばらく様子を見ることにしたな、と。また、山口と同じ、前半残り5分前くらいに私も根本のクセに気づいた。それはまさに山口が言った通りだ」
桜田はキャプテンとしての自分を責めた。監督、そして、山口の判断が正しいのだ。自分の考えは、これまで桃色学園の前に敗れ去ってきた高校と変わらない。冷静に考えれば分かることだ。いたずらにファールを重ねて止めても意味がない。山口の退場は中三高校の敗北を意味するものだ。桃色学園に敗れてきた高校も、根本のマークに集中するあまり、ファールを重ねたり、ダブルチームにいって増田をフリーにし、次々と3ポイントシュートを決められていたのだ。 阿久はハーフタイム最後の言葉を贈った。
「前半のようなことはない。根本のカットインは山口が対応してくれるはずだ。オフェンスはとにかく桜田が増田のサイドから1対1で仕掛けろ。止められたら一旦ボールを森に預ける。そして倉田が増田にスクリーンをかけ、桜田は左サイドに流れろ。まずフリーでボールがもらえるはずだ。後は確実に決めていけ」
ハーフタイム…桃色学園ロッカールーム。
監督の都倉は中三高校の予想外の粘りに若干の焦りを感じていた。 『甘く見ていた。全国を制覇するチームというのはやはり底力がある』と。 しかし、その焦りは言動に出さず努めて冷静に選手に向かった。
「いいか、みんな。全く問題はない。我々のペースだ。向こうはすでにいっぱいいっぱいだ。増田はもっと冷静になれ。桜田ごときのディフェンスに何をいらついている。とにかく冷静にまずは1本決めろ。すぐにいつもの感覚を取り戻せ。それから後半はディフェンスをマンツーマンに切り替える。根本は桜田、増田は山口のマークにつけ。今日の桜田はシュートタッチがいい。なるべくフリーでボールを持たせたくない。根本が徹底マークしろ。今日の中三高校は桜田だけ抑えれば問題ない」
「はい」
根本は警部のような敬礼で都倉の言葉を受けた。 ハーフタイムも残り1分になり、両校の選手が再びコートに立った。
ピンクタイフーン、去る。
後半開始直後「えっ」と桜田が小さく声を漏らした。根本がピッタリと桜田のマークにきたからだ。
相手ディフェンスがマンツーマンに切り替わったことで、中三高校の選手は一瞬戸惑ったが、森が冷静にゆっくりとしたドリブルで状況確認の時間をつくった。このあたりの冷静さが、百戦錬磨の中三高校らしいところだ。阿久はベンチで思わず笑みをこぼしていた。
「マンツーマンに切り替えてきたな。好都合だ。桜田を止めるためにマンツーマンで根本をつけてきたが、桃色学園はあの二人以外、マンマークで厳しく相手にプレッシャーをかけられるレベルではない。自分のマークしか見れず、周りがほとんど見えていない。桜田が無理しなくても余裕を持って攻撃ができる。桃色学園に焦りが生じてきている証拠だ」
森はセンターの倉田にボールを入れた。マンツーマンになり、倉田も比較的ゴール下での自由がきくようになった。倉田についている選手は背が高いだけで動きは鈍い。左にターンし、あっさりとマークを外し、ゴールを決めた。
桃色学園は早速ボールを根本にまわした。
山口は集中した。後半開始直後の1本目が勝負だ。根本の動きを見極め、チャージングをとって出端をくじけば、根本だけでなく桃色学園全体が動揺するだろう。
根本はパスを受け取ると、すぐにドリブルに入り、ペースダウンした。
『右に肩を入れたフェイクの次に左だ』山口は確信した。
根本はドリブルをしたまま半歩下がり、山口との間合いを図った。
山口は仕掛けた。体重を前にかけ、ドリブルをカットにいくフェイクを入れた。
根本は、山口の動きを逃さず、トップスピードで左サイドを抜きに行った。その瞬間、ドンッ!という衝撃を受けた。山口が見事に根本のドリブルコースの正面に体を入れた。「ピーッ!」笛が鳴り「ファール!チャージング」と主審の声。
「まさか…」根本だけでなく、桃色学園ベンチ、そして会場が一瞬静まり返った。
山口はガッツポーズひとつせず、何事もなかったかのように、攻撃のポジションに戻っていた。
中三高校は、桃色学園の動揺を見逃さなかった。相手のマークにズレが生じているうちに、森、山口、桜田と小気味よくボールが回り、連続ゴール。4点差まで詰め寄った。
桃色学園は、フロントコートに入ると再び根本にボールを回した。
バスケットボールに限らずスポーツは心の動揺がプレーに出る。攻撃的ディフェンスとも言えるチャージングは、止められた側はリズムが狂い、取った側は勢いがつく。根本の目には、明らかに止められた怒りと焦りが現れていた。しかし、山口は根本にいくら抜かれても、チャージングをとっても、一切表情を変えなかった。これが根本を余計に苛立たせていた。
根本は、山口を抜ききれなくなった。動きを止められ、一旦増田にボールを回した。しかし、桜田がすぐに体を寄せて増田にシュートチャンスを与えない。しかたなく増田はセンタープレーヤーにボールを入れた。桃色学園の攻撃テンポが悪くなっているのは誰の目から見ても明らかだった。S.O.S。桃色学園の乙女たち、大ピンチ。
最後は再び根本にボールを預けた。桃色学園はすでに根本のドリブル突破以外、攻撃が組み立てられなくなっているのだ。根本は、カットインにいく前に、一瞬躊躇した動きを見せた。すかさず森がダブルチームにいく。苦し紛れに根本が増田にボールを戻そうとした。それを桜田が見事に読んでインターセプト。それまでの根本には見られなかったプレーだった。気持ちにゆとりがなく、周りが見えなくなっている証拠だ。桜田はそのまま難なくフリーでレイアップを決めた。
あとは中三高校の一方的な試合となった。阿久が考えていた通り、経験とチーム力の差が明らかに出た。加速した勢いは、ノっている時は手が付けられない。しかし、それが削がれた時はあまりにも脆く崩れるものである。後半の桃色学園は準々決勝、そして今日の前半までとは、全く別のチームになっていた。
桃色学園が息を吹き返すことなく中三高校が81-60で桃色学園をくだした。後半だけを見れば、48-21の大差となった。
阿久は、勝負事の怖さを痛感していた。おそらく都倉は、100%勝利を確信していたことだろう。一方、阿久は試合直前まで、勝利の糸口を見出せずにいた。結果は中三高校の大勝である。阿久は冷静に勝因を分析していた。
・ 中三高校がわずか10点のビハインドで前半を折り返したこと(前半終了間際の桜田のポイントが大きかった)。
・ 二枚看板の一人である、増田にほとんど仕事をさせなかったこと。
・ 一方的な展開を予想していた都倉が前半終了時の「10点差」に焦りを感じたこと。
・ そのため、決して崩されていたわけではないのに、桜田を警戒するあまり後半からディフェンスをマンツーマンに切り替えたこと。
・ そして、後半開始早々に山口が根本から取ったチャージング。一撃必殺のカウンターとなって、大きなダメージを相手に与えた。
阿久は試合後の挨拶を終え、ベンチに戻ってきた選手たちを頼もしく見つめていた。
一方、都倉は泣き崩れる選手たちを前にして、かける言葉さえも見つからないでいた。
かくして決勝戦は「中三高校」×「春一番高校」の対戦となった。
トイレの仕切りの向こう側
決勝前夜。
「スポーツニュース、はじまるよ」
森の声に、宿舎にいる中三高校の全部員が食堂にあるテレビの前に集まった。
「さあ、続きましてはスポーツコーナーです。安西キャスターに伝えてもらいましょう」
スポーツニュースといっても、21時から放送している報道番組の1コーナーである。深夜帯のスポーツ専門番組まで夜更かしすることはできない。
大相撲初場所で、横綱北の海が7日目が富士桜に敗れる波乱が起きたというニュースを伝えていた。
「続いて、注目の全国高校バスケットボール大会をお伝えしましょう。まずは、本日正午から行なわれた男子決勝戦、福岡県代表「安奈高校」対、広島県代表「アリス学園」の試合からご覧ください」
という安西キャスターの声に続き、男子決勝のダイジェスト映像が始まった。 結果は安奈高校が78-67でアリス学園を破り悲願の初優勝となった。エースの甲斐が34得点とまたしても大爆発の活躍だった。
「アリスの谷村くんや堀内くんより甲斐くんの方が好みかな」
この森の言葉に対して山口が言った。
「私は甲斐くん、なんか生意気で偉そう。タイプじゃないな」
それが墓穴を掘った。
森「そうね、あなたは三浦くんみたいに誠実そうな人がタイプなのよね」
山口「なんでそこに三浦くんが出てくるのよ」
桜田「うまくいっているの、三浦くんと」
山口「いいじゃない、そんなこと」
森「もう“ひと夏の経験”しちゃったんじゃないの〜」
山口「ばっかじゃない」
試合における絶妙なパスワークのような会話が続いた。
「初優勝を飾りました安奈高校のキャプテン甲斐選手が、めずらしくインタビューに答えてくれました。その模様をどうぞ」と安西キャスター。
森「あら、珍しい。何を話したのかしら」
レポーター「本日はどのような気持ちで試合に臨まれたのですか」
甲斐「 “ヒーローになる時それは今”。それだけです。」
「ふえ〜聞いた!キザね〜。ヒーローになる時、それは今、だってさ。」
森がおどけながら言った。
「昨夜から徹夜して考えたんじゃないの。とっさにこんなコメント出るかしら」と桜田。
「そうね。でもデカイ顔と態度だけど、しっかり結果を出すからね」と山口。
「さて、続いて女子の準決勝です。会場は超満員となり大変な盛り上がりを見せました。まずは14:30から行なわれた第一試合、「春一番高校」対「元祖高校」の試合からお伝えします」
2分ほどにまとめられた第一試合のダイジェスト映像が流れた。春一番高校の伊藤、田中、藤村がシュートを沈めるシーンばかりを編集した映像を見せられると、不思議なもので、どのチームより強豪に見えてしまう。男子のダイジェストの時と比べ、みな真剣に画面を見つめていた。
ダイジェストが終わると、数人の部員が小さなため息をついた。根本、増田ほどのインパクトはないにしても「手強い相手」であることは間違いないと感じたからだ。
「第一試合終了後、春一番高校のキャプテン伊藤選手から注目の発言がありました。ご覧ください」
「注目発言?何か嫌ね。決勝の前に」
森が不安げな表情で言った。
春一番高校、伊藤がブラウン管に映し出され、少し俯き加減に話しだした。
「私と田中、藤村の3人が、正式競技としてバスケットボールの試合に臨むのは明日が最後になります。大学に進学しても、あるいは社会人になっても、バスケットを続ける予定はありません。普通の女子大生、OLになります。よって明日は私たちの集大成となる試合をしたいと思います」
「これは困ったことになった」
桜田が神妙に言った。
「どういうこと。困ったことって?」と森。
「分からないの。たたでさえ、彼女たちは人気があるのに、今の発言でさらに注目が集まることになるわ。それに、地元東京での試合。私たちにとって明日の試合は間違いなく完全アウェイの状態になるでしょうね」
山口が冷静に分析した。
「初優勝のチャンスだからね。「手段選ばず」ってところかな。すべてを味方につけようということね」
桜田も平静を装っているが、内心は穏やかではなかった。
「心配するな。彼女たちにも相当なプレッシャーになるはずだ。我々の方が開き直れて冷静に戦えるかもしれない」
阿久が部員たちの動揺を抑えた。ブラウン管では第二試合のダイジェストが始まろうとしていた。
「さあ、続きまして17時から行なわれた第二試合、事実上の決勝戦ともいわれる好カード「中三高校」対、「桃色学園」の試合をご覧頂きましょう」
画面では山口が根本からチャージングをとったシーンが流れていた。このプレーがこの試合の分岐点となったというコメントも添えられていた。
ダイジェスト映像に続き、監督の阿久、キャプテン桜田のインタビュー映像が流された。 二人とも「明日も普段通り、中三高校のバスケットをするだけです」と当たり障りのないコメントに終始した。
「テレビは消してくれ。明日のミーティングをしよう」
阿久の声でテレビが消され、一同が食堂中央に集まった。
「今日は前半だけだが、会場で春一番高校の試合を見ているからビデオ分析はなしだ」
桃色学園戦のことで頭がいっぱいだったため、ほとんど試合を見ていなかった中三部員は思わず俯いた。
「今テレビで見たように、そして、山口が分析したように、伊藤の発言で明日の会場は、春一番高校の応援一色になるかもしれない。しかし、お前たちは夏の高校総体も含めれば明日は3度目の決勝戦だ。まずはその経験に自信をもつことだ。春一番高校は伊藤、田中、藤村はもちろん、学校としても初の決勝進出でもある。序盤は必ず浮き足立つはずだ。お前たちが雰囲気に飲まれることなく、普段通りの戦い方ができれば、負ける相手じゃない」
阿久は戦術ではなく、自分たちが精神的に優位に立っていることをあらためて強調した。中三高校部員たちは小さく頷いた。続いて戦術の話になった。
「明日のディフェンスは2-3のゾーンでいく」
監督の指示は桜田の予想通りだった。技術的には桃色学園の根本と増田の方が上だろう。春一番高校の場合、基本的には伊藤がポイントガードで、田中、藤村を含めた3人が巧みにポジションチェンジを繰り返しながら、パスワークで攻撃を組み立てていく。いつの間にかフリーの状態でシュートを打たれてしまうというパターンだ。ゾーンで自分の責任範囲をしっかり守る方が得策だろうと桜田も考えていた。
「高さはないが、伊藤の3ポイント、田中のドリブルインは精度が高い。しかし、この二人にあまり気を取られるな。二人に気を取られていると藤村がフリーになり、確実にシュートを決められる。伊藤と田中のプレーが派手な分、目立たない存在だが、実は藤村が春一番高校のバランスを取っているキープレーヤーだ。派手さはないが、基本がしっかりしていて、どんなプレーもミスが少なくソツのないプレーをする」
『要注意は藤村さんか…』桜田がつぶやいた。中三トリオの中では、山口に近いタイプだろう。それにしてもスターター5人の平均身長が159センチのチームが決勝まで勝ち上がってきたことは奇跡に近い。私たちも決して高くはないが、センターの倉田が180センチあり、攻撃に幅を持たせてくれている。春一番高校はセンタープレーヤーすら167センチしかない。よほど、パスの精度が高くスピードがあるのだろう。ある意味、桃色学園よりやり難いかもしれない…。桜田は春一番高校に対する警戒を強めた。
「次にオフェンスだ。相手は3-2のゾーンでくるだろう。高さがない分、ボールを持った相手に対しては一人が激しく当たりにいく。そして、対戦校は「春一番は高さがない」という意識が強いため、オフェンスは安易にセンタープレーヤーにボールを入れようとする。そのボールのインターセプトを必ず誰かが狙っている。そこから速攻という得点パターンが最も多い。我々もセンターの倉田にボールを入れるときは細心の注意を払うように」
「はい」
中三部員たちは手強いという認識は持ったものの、桃色学園戦を前にした昨夜ほどの緊張感はない。ミーティングを終え、各々が部屋に戻っていった。
就寝前に桜田がトイレに入った時、個室から嗚咽が漏れる声が聞こえてきた。
「誰?どうしたの」桜田が声をかけた。
「大丈夫、なんでもない。」山口の声だった。
「どうしたのよ」
「明日が本当に最後の一戦だと思ったらちょっと感情が溢れちゃって。人前で泣くのは私のガラじゃないし。」
いつも冷静そうな山口。明日もいつも通り淡々とプレーするものだと思っていた私は猛省した。明日の一戦に対する覚悟は、私の比じゃない。このトイレの仕切りの向こう側で見せた山口の涙は、桃色学園戦前より緩んでいた私の気持ちを引き締めるには十分すぎた。
寒中お見舞い申し上げます。
1978年1月15日。決勝戦当日。
決戦は14時開始予定。中三高校部員は7時に起床し朝食をとった。
「おはよう」
森が能天気に話しかけてきた。
連戦で疲労はピークのはずだ。本来なら体が重く感じられるところだろう。しかし、気力が疲労をはるかに上回っていた。このメンバーで同じコートに立てるのは今日が最後。必ず有終の美を飾ってみせる。その思いは春一番高校も同じだ。ここまで来たら気力が上回ったほうが勝つ。
食欲はなかったが、それこそ気力で、納豆とみそ汁であきたこまちを2杯平らげた。隣では森が3杯目のおかわりをしていた。桜田はその頼もしさに笑みがこぼれた。
「11時にはロビーに集合。11時半に会場に入り、簡単な昼食をとる。12時半からアップ開始の予定だ」
中三高校が宿舎をバスで出発して20分、決戦の地、代々木第二体育館が見えてきた。
「なに、アレ?」
誰ともなく同じ言葉を口にした。
開場時間は13時だというのに、会場をとりまく長蛇の行列ができていた。昨日の準決勝の比ではない。すでに、そこかしこで応援合戦が始まっていた。
「徹夜組が200人以上出たって、今朝のニュースで言っていましたね」
人の良さそうなバスの運転手が言った。
「200人?!」森が大げさに驚いてみせた。
「今日は隣の第一体育館でやっても間違いなく満員になっていたでしょう、って」
そういいながら運転手は、慎重に関係者入り口前にバスを留めた。バスの周りはあっという間に黒山の人だかりとなった。 桜田の親衛隊たちの低く太い声がバスの周りでこだました。
山口には女性ファンからもたくさんの声がかかっていた。
中三高校部員たちはバスを降り、足早に入り口を抜けていった。後ろで警備員と男性ファンがもみ合っている声が聞こえた。
「ふ〜、なんか当事者たちより盛り上がっているみたい」
桜田がため息まじりに言った。
「これじゃ春一番高校は裏口でも使わないとまともに会場に入れないんじゃない」
冷静な山口もさすがにあまりの熱狂ぶりに驚きを隠せないでいた。
ちなみに春一番高校は混乱を避けるため、10時には既に会場入りしていた。
ロッカールームに入ると、サンドイッチで簡単な昼食とり、着替えを済ませた。コートに出るとすでに春一番高校部員がコート半分を使ってアップを始めていた。観覧席はもちろんまだ無人である。春一番高校部員のかけ声と、キュッ、キュッというシューズと床の摩擦音だけがやけに大きく会場内に響いていた。
中三高校もさっそく一方のハーフコートで、ランニング、ストレッチ、ディフェンスフットワーク、スクエアパスとルーチンのアップメニューを次々とこなしていった。
みんなと一緒にする最後の練習メニューがひとつひとつ消化されていく。
一通りのアップメニューを終えると、両校の選手はベンチ前で試合前最後のミーティングをはじめた。そして、両校のスターティング5とベンチ入りメンバー表が交換された。両校とも不動のスターターだ。
中三高校スターティング5
ガード:山口、森
フォワード:桜田、石川
センター:倉田
春一番高校スターティング5
ガード:伊藤、田中
フォワード:藤村、岡田
センター:清水
試合前のミーティングは、特に細かい指示もなく、昨夜のおさらい程度のものだった。
そのとき、一瞬地響きのような音がした。開場されたのだ。殺気立った3千人を越す観客が我先にとゲートから流れ込んできた。観覧席は、両校の応援団用に確保された一角以外は、あっという間に埋め尽くされた。立ち見までぎっしりだ。
早くも会場中から野太い声が降り掛かってきた。予想通り8割型は春一番高校の応援のようだ。
「まるでアイドルのコンサートね」
森が独り言のように呟いた。
続いて各校の応援団が指定の席についた。立錐の余地も無い、というのはまさにこのような状況をいうのだろう。成人の日ということもあり、会場内には晴れ着姿の女性も目につき、決勝の舞台に華を添えていた。
会場の外も、入場できなかった人たちが数千人に膨れ上がり、急遽街頭モニターが設置された。
空前絶後の盛り上がりの中、ミーティングを終えた両校選手は、最後のシュート練習を行なうため、再びコートに立った。そこで会場のボルテージはまた一段とあがった。
シュート練習をしながら桜田が山口に歩み寄る。
「ほらあそこ見て」
山口が指差したところには「頑張れ中三トリオ」の垂れ幕があった。そこには桜田、山口、森の似顔絵が描かれていた。数は春一番高校のそれには及ばないが、彼女たちを充分に勇気づけた。
「あの私の似顔絵、モンチッチじゃない」
森が唇を尖らせながら、二人のもとにきた。
「あら、そっくり。かわいいじゃない」と桜田。
会場は異様な雰囲気に包まれていたが、中三高校の3人に、その雰囲気に飲み込まれる様子はない。
試合開始2分前を告げるブザーが鳴り、両校の選手はシュート練習を終え、ベンチ前に集まった。 いよいよ、最後の決戦が始まる。
微笑み返せず。
主審と副審を挟むかたちで両校の選手がセンターサクールで向かい合った。
『あら、かわいい』と森が心の中でつぶやいた。
中三高校と春一番高校は初対戦である。 試合中や練習中の姿を遠目から見たり、ブラウン管越しには何度か見ていたが、こうして伊藤、田中、藤村の3人を目の前で見るのは、はじめてだった。
春一番高校は主力の3人はもちろん、皆とてもバスケットボールという激しいスポーツを毎日やっているとは思えないほど、小柄で華奢でキュートだった。
雑念を振り払い、桜田は意識的に表情を固く引き締め、キャプテンの伊藤と握手をした。
伊藤はそんな桜田の厳しい表情に対し、握手をしたまま桜田を見つめ、にっこりと微笑みを返してきた。特段に美人ではないが、何ともいえない愛嬌が彼女の最大の魅力である。桜田に微笑みを返す余裕はなかった。先ほどまでの集中力が消え、またあの騒々しい応援の声に耳を塞ぎたくなった。
『もう相手のペースだ』桜田はそんな感覚に襲われた。
ジャンプボールに倉田と清水が対峙した。主審の手からボールが離れ、決勝の火ブタが切られた。
ボールはまず中三高校の手に収まった。予想通り相手は3-2のゾーンディフェンス。前列3人、左に藤村、真ん中に伊藤、右に田中がポジションを取っている。
森は石川にボールを預けた。石川はセンターの倉田を見た。しかし、倉田はポジション取りに苦労していた。春一番高校の清水はセンターとしては小柄だが、体の入れ方が上手く、倉田へのパスコースを消していた。石川は森にボールを戻した。森は山口にパスを回した。3ポイントシュートを不得手としている森がボール持ったときは距離を詰めてこなかったが、ポイントガードの山口にボールが渡ったとたん、スルスルと藤村が詰めてきた。シュートの機会を逃した山口は、新たなパスコースを探した。しかし、春一番高校のディフェンス陣が絶妙なポジショニングをしており、有効なパスコースが見つからない。
結局シュートエリアからかなり離れたところまで出てきた桜田にパスを送った。
今度はサッと田中が詰めてきた。
背の低いチームがここまで勝ち上がってくるにはそれだけの理由があるはずだ。桜田はその理由の一つを理解した。一人ひとりの基本とチームとしての戦術がしっかりしているのだ。
桜田は強引にドリブル突破を図り、ジャンプシュートを放った。しかし、田中を完全に振り切れず、無理な体勢で打ったためボールはリングに嫌われた。
リバウンドボールは春一番、清水の手におさまり、すぐにガードの田中へパスが送られた。田中はスピードある重心の低いドリブルで、ボールをフロントコートへと運んだ。
そこから、春一番高校の小気味のいいパス回しが始まった。田中→清水→伊藤へとパスが回り、そこで伊藤が鋭くカットイン。そこに中三高校のディフェンスが引きつけられた。伊藤はすかさず藤村へ正確なバウンズパスを送った。藤村にボールが渡った時は、完全なフリーの状態。あっさり先制のゴールを許してしまった。
中三高校は、桜田がシュートフェイクからセンターの倉田へパスを通した。しかし、春一番の清水が、しっかり体を寄せているため、リングを向くことができない。強引にフェイドアウェイのショートを放ったが、エアーボールとなり、藤村にリバウンドを奪われた。
春一番高校は、藤村から田中へボールが回り、左サイドに流れていた岡田へパス。岡田はすぐさま右サイドからフリースローラインに走り込んできた田中にパスを通した。田中は、自分が走り込んできた逆サイドにノールックパスを送った。一瞬パスミスかと見まがったが、そこに伊藤が走り込んでいた。ほぼフリーの状態となった伊藤は、躊躇なく3ポイントシュートを放ち、ノータッチでリングに吸い込まれた。
森が田中の動きにつられ、自分の責任範囲以上のエリアまで追ってしまい、ゾーンディフェンスのバランスが崩れた一瞬の隙をを田中は見逃さなかった。
春一番高校の攻撃は、トライアングル・オフェンスと呼ばれている高度な戦術だ。
サッカーで言うなら1974年にヨハン・クライフを中心としたオランダ代表チームが見せたトータル・フットボールである。全員攻撃全員守備が基本にある戦術で、個々の選手が思いのままにポジションチェンジを行いながら素早くパスを繰り返す中で、防御側にスキを作り出す攻撃である。
結果、フリーになる選手を作り出し、確実に得点を重ねていく。コート上の5人全員が協調して動くことが基本であり、全員が一定以上の能力とスタミナを有しないと実現し得ない。桃色学園の根本のように、突出した選手が存在しなくても強力な攻撃を発揮することができる。
これはディフェンスにも言える。全員が連動したディフェンスを行うことで、オフェンス側にフリーの選手を作らせない。
スターティングメンバーの平均身長が159センチと、全国レベルではあり得ない高さである春一番高校が決勝まで勝ち上がってきたのは、この戦術とそれを可能にする選手の能力に他ならない。
連続ゴールを決められた瞬間、中三高校の5人全員が一瞬立ち尽くした。昨日の準決勝開始早々に、桃色学園根本の高速カットインで先制ゴールを決められたときとは異なる衝撃が彼女たちの足を止めたのだ。決して中三高校の5人が緊張していたわけでも、浮き足立っていたわけでもない。普段通りのフットワークでディフェンスをした。それをあざ笑うかのような相手のパス回しに翻弄され、連続ゴールを許したのである。
桃色学園戦のように、限られたプレーヤーを集中的にマークすれば済む問題ではなかった。桃色学園に限らずこれまで多くの強豪校と対戦してきたが、元祖高校の天地、木綿高校の太田など、必ずキープレーヤーがいた。言い換えればそのプレーヤーを抑えれば、自分たちのペースで試合を進めることができた。しかし、春一番高校の攻撃はその“的”を全く絞ることができない。
桜田が「行くわよ」と声をかけ、ようやく中三高校の選手はオフェンスの体制に入った。
桜田は、1本返すことが先決だと気持ちを切り替えることに努めた。もし、ここで決められず、相手に3連続ゴールを許すようだと、序盤から苦しい展開になることは想像に難くなかった。
山口も同様の思いでいた。このオフェンスはこの試合を左右するかもしれない。相手に「中三高校組みやすし」という余裕を与えてしまうことにもなる。あの緩急自在なパスワークを防御するには時間がかかる。それまでは桃色学園戦同様、離されずに食らいついていくことが重要だ。
まさに美・サイレント
森がドリブルでフロントコートへボールを運ぶ。右サイドの山口へパス。スルスルと田中が間合いを詰める。
そこで石川が田中にスクリーンをかけた。すぐさま山口はドリブルでカットイン。春一番の岡田がフォローで山口につきにきたところを見計らって、センターの倉田へバウンズパスをして自分はゴール下へ切り込んだ。パスを受けた倉田は、すかさずその山口へパス。基本的なパス・アンド・ランだ。パスを受けた山口はそのままレイアップシュートにいったが、気付いたら春一番のセンター清水がしっかりと山口に体を寄せていた。
山口は無理な体勢でのシュートを余儀なくされ、ボールはリングに嫌われた。しかし、清水が山口のカバーに回ったため、リバウンドに入ることができない。ここで桜田は持ち前のジャンプ力で、すでにリバウンドポジションを取っていた伊藤の上から強引にオフェンスリバウンドを奪った。ファールギリギリのプレーだったが、笛は鳴らならずそのまま流された。桜田はゴール下からのイージーシュートを確実に決め、なんとかワンゴールを返した。
春一番高校唯一の弱点はやはり“高さ”である。最もリバウンドの強い清水をリバウンドポジションから外すことができれば、オフェンスリバンドをかなりの確率で取れる。フリーでのシュートは中々打たせてもらえないが、こぼれたシュートのオフェンスリバウンドを桜田、倉田が奪えれば、ゴール下からのイージーシュートに繋がる。春一番も絶妙なブロックアウトをしてくるため、リバウンド奪取はファールを取られるリスクも高い。しかし、春一番の足が止まるまでは、他に効果的なオフェンスはないだろう。桜田も山口も同様のことを考えていた。
春一番高校が唯一苦戦したのが2回戦のスクールメイツ高校戦だった。スクールメイツの183センチある高校日本代表候補のセンタープレーヤーにオフェンスリバウンドを奪われゴールを重ねられたのが苦戦の要因だった。この試合も桜田、倉田がブロックアウトをかわし、どれだけオフェンスリバウンドを奪えるかが重要になってくる。桜田はそのことをディフェンスに戻りながら倉田に告げた。
問題はディフェンスだ。春一番高校オフェンスのリズムをどこかで乱さないと、得点を重ねられるばかりだ。 山口はクールな頭脳で、その策を考えていた。パス、スクリーン、カット…必ずどこかにスキはある——。とりあえず前半の10分は、ツー・スリーのゾーンでしっかり守ること。その間にじっくりと見極めていけばいい。相手のスピードが最後まで続くとも思えない。
相変わらず、中三高校のディフェンスは、春一番高校のトライアングル・オフェンスに乱され、65%を超えるフィールドゴールパーセンテージでゴールを奪われていった。
一方、中三高校も清水をゴール下からおびき出し、リバウンドを桜田、倉田が奪ってゴールを決めるというワンパターンの攻撃で食らいついていった。しかし、ジリジリと点差は広がり、前半の11分を過ぎたところで、20対12と8点のリードを奪われていた。ここで中三高校の阿久がタイムアウトをとった。
「強いな」阿久はベンチ前に集まった選手にありのままに話した。
その言葉に桜田たちは、声もなくこくりと頷いた。
「大丈夫だ。前半はこのままでいい。泥臭く見えるが、オフェンスリバウンドを奪ってのゴールは、ボディブローのように聞いてくるはずだ。すでに、清水と岡田はかなり息が上がっている。しつこく同じ攻撃を繰り返していけ。とにかく1桁以内の得点差をキープすることだ。勝負は後半だ。策はある」
阿久の言葉を聞いても桜田は不安だった。オフェンスは泥臭くゴールを重ねていっても、相手オフェンスをとめるイメージが全く掴めなかった。
山口は下を向いたまま何か考えを巡らせているようだった。桃色学園戦のように、山口と阿久だけが既に打開策を見つけているのだろうか。山口はなにも話そうとはしない。ただ、寡黙に佇んでいる姿が、とても桜田の目に美しく映った。まさに美・サイレント。三浦くんとの交際が順調なんだろう。桜田は大事な場面で不謹慎なことを考えていた。
「さあ」という阿久の声に我に返った桜田は、
「監督の言葉を信じて、ディフェンスもオフェンスも1本1本、大事にいきましょう」
前半の残り9分は監督の指示通り、オフェンスもディフェンスも泥臭く食い下がった。傍目には春一番高校が完全にゲームを支配し、一方的な展開に映ったかもしれないが、前半を終わってみれば36-27の9点差で折り返すこととなった。
元気芝居
ハーフタイム。中三高校ロッカールーム。
阿久は選手を中央に集め、後半の指示を切り出した。
「後半はマン・ツー・マンでいく」
桜田がこの指示にすかさず反応した。
「監督、それでは向こうの思うツボではないですか。スクリーンやカットで、さらに崩される可能性があります」
「そのとおりだ。しかし、それを逆手に取る。マン・ツー・マンにすれば、向こうはボールの有るところはもちろん、無いところでもスクリーンを多用してくるはずだ。我々としてはわざとスクリーンをかけさせる。ここからがポイントだ。スクリーンをかけられたら、迷うことなくすぐにマークをスイッチしろ。スイッチの隙間を相手に与えるな」
「スキマスイッチね」
森が感心したように呟いた。
「タイミングが少しでも遅れると、向こうはすぐにそこをついてくる。本来スクリーンをかけられた時は、その時の状況を見てスイッチか否か判断をするが、その一瞬の間合いを生ませることがオフェンスにおけるスクリーンの効果だ。しかし、最初からスイッチを前提に対応すれば、その間合いは最小限に抑えられる。春一番には長身選手が一人もいないから、スイッチしたことによるミスマッチも生まれない。ゾーンで守るより、この方がフリーの選手を作らせる確率は減ってくるはずだ。後半のディフェンスではこれを繰り返せ。必ずオフェンスのリズムが乱れてくるはずだ」
さすが監督だ。桜田は思った。スクリーン戦術とはフリーとなる選手のスペースを作ることと、スイッチによるミスマッチを生むことが主な目的だ。しかし、スイッチだけを頭に入れて対応すれば、スペースを与えることも防げるし、マークする相手が変わったところで、相手の身長はみんなドングリの背比べで、ミスマッチは生じない。確かに効果的かもしれない。
「どう思う?」
桜田は山口に問いかけた。
「いいと思う。 “必ずスイッチ”という前提の守りはそんなに難しくないし」
山口は幾分明るくなった表情で答えた。
「他に何か策は?」
桜田は山口の秘めたる策に期待した。
「具体的な策はない。ただ…」
「ただ、何? 」
「前半の終わりの方は、春一番のイージーなシュートミスにも助けられたところもあったしね。14〜15点離されていてもおかしくはなかった」
「まだ運があるということ?」
「あれは確かにミスかもしれないけど、私はシュートの精度が落ちてきていると思う。淡々とやっているようだけど、決勝ということで最初からかなり飛ばしてきていたし。しかも、連戦の疲れもある。高度な戦術だから競っている時は、ずっと固定のメンバーで戦っているみたいね。他の選手が入るとあのリズムでは攻撃ができないんだと思う。点差が開けば交替で主力を休ますこともできるけど、私たちが食い下がってきているから、なかなか交替もできない。ディフェンスでも清水さんが私のカバー、岡田さんはあなたと倉田のオフェンスリバンド阻止で相当のエネルギーを使っている。監督の言うようにボディブローが効いているはず。最後の10分は足が止まってくるわ。勝負は残り10分だと思う」
確かにあの戦術に費やすエネルギーは相当だろう。いくらスタミナがあるとはいえ、準々決勝から数えて3連戦目だ。疲労が出てきても不思議ではない。
春一番高校のロッカールーム。
疲労の色を見せる選手たちに向かって、監督の森田が重い口を開いた。
「15点差がついたら交互にメンバーチェンジをしていく予定でいたが、さすが中三だ。我々の弱点を徹底的についてきている」
そこで森田は言葉を切った。運動量の多い田中、岡田、清水の3人を後半開始から5分ほど、同点あるいは逆転されるリスクを承知で休ませ、残り15分の勝負に出るか。それとも疲労は承知で、最後まで頑張ってもらうか。幸い、伊藤と藤村はまだ元気なようだ。田中も疲れを技術で補える選手であり問題ないだろう。しかし、岡田と清水の足が止まった場合、ゴール下を完全に支配される。
「岡田、清水、後半もフルタイムいけるか?」
森田の問いに二人は、迷わず「はい」と答えた。
しかし、声には明らかに生気が無かった。チームの弱点である高さを、162センチの岡田と169センチの清水が巧みなポジショニングと豊富な運動量でカバーしてきた。この二人の存在があって、はじめて伊藤、田中、藤村3人のプレーは活きてくる。 トライアングルオフェンスは女子高校バスケでは、完成形に近いレベルにある。しかし、戦術要素が強いため、固定のメンバーで戦ってきたリスクがここにきて出てきてしまった。控えの選手ではほとんどトライアングルオフェンスは機能しなくなる。
「大丈夫」
「任せて」
岡田と清水は気丈に答えた。
ハーフタイムも残り2分を切った。運命の後半。史上稀に見る激闘の後半戦幕開けのカウントダウンが始まり、両校選手は再びコートへと向かった。
わな。
後半開始直前の円陣で桜田は言った。
「残りの20分に体力、技術、気力、執念のすべてを使い切って。そうしなければ春一番には勝てない。東京のモダンなバスケには、北国のど根性で対抗しましょう。相原こずえも、岡ひろみも、矢吹ジョーも、星飛雄馬も勝者のキーワードはみんな根性よ。思い出して。雪面での2時間ランニングにダッシュ100本、真夏のオールコートでの7時間練習。みんな、これからの20分のためにやってきたんだから」
桜田の声はうわずっていた。部員たちの目も充血している。溢れる感情、気力が抑えきれず、森の目からは大粒の涙がこぼれ
落ちていた。クールな山口でさえも、その目には鬼気迫るものがあった。
春一番高校のベンチ前も円陣が組まれた。9点のリードがあるとはいえ、いつも笑顔の絶えない春一番部員たちの表情は冴えない。自分たちの体力、中三高校のしたたかさと底力…。森田は、彼女たちの胸をよぎっている不安を拭い去る言葉を探した。しかし、言葉も戦術も思い付かず、うなずくしかなかった。
後半が始まった。
ハーフタイムで僅かながらエネルギーを回復した春一番高校の動きは、傍目から見れば極端に落ちているようには見えない。ただ、試合開始当初のキレがないことは、桜田も山口も感じていた。
しばらく一進一退が続いたが、後半開始7分に動きがあった。山口がゴールを決め、46-39と中三が7点差につめた時だった。 春一番高校の選手の一人が、ゴール下で膝に手を置いたまま一歩も動けないでいる。岡田だった。すぐさまタイムアウトを取ったが、岡田は自力でベンチに戻ることができない。両足が痙攣を起こしていた。田中と藤村が肩を貸し、岡田はその二人の肩にほぼぶら下がるような形でようやくベンチについた。
「岡田、スポーツドリンクを飲め。脱水症状を起こしているかもしれない」
岡田は、悔しさと痛みで目に涙を浮かべ、唇を噛み締めていた。既にその足元では1年生の大場が岡田の足のマッサージを行なっていた。
森田は、岡田のポジションに誰を入れるか逡巡した。控えの中では安定感がある岩崎か、スピードのある石野か、ムードメーカーの榊原か…。誰を選んでも岡田の穴を埋めるには荷が重すぎる。岡田の痙攣が治まり後半の勝負所で動けるようになるか、可能性は五分五分だろう。森田は岡田の回復に賭けた。つなぎの10分を考えたら岩崎が適役と判断した。
「岩崎、岡田のポジションに入れ」
トライアングルオフェンス、その攻撃力は半減するだろう。何よりリバンドの弱点をさらに突かれることは避けられない。残り5分まで逆転を許さずに持ち堪え、回復した岡田をコートに戻す。森田が思いつく勝利のシナリオはそれだけだった。
タイムアウトが解け、春一番ボールでプレーが再開された。その直後だった。ディフェンスを振り切ってパスを受けた清水が顔を歪めその場に蹲み込んだ。すかさずこぼれたルーズボールを中三の山口が奪い、楽々とレイアップを決めた。 今度は清水が足を吊ったようだ。
さすがに森田は焦った。3回しかないタイムアウトをここでまた使うわけにはいかない。
「石野!代われ」
森田は躊躇なく交代のカードを切った。
「みません。監督。すぐに回復します」
清水はベンチに下がりながら言ったが、顔は青ざめている。
森田は交代とともに、1年生部員に清水への水分補給と足のマッサージを命じた。岡田だけでなく清水までも…。この3年間どんなハードな練習でも二人が足に痙攣をおこしたり吊ったりすることなどなかった。蓄積疲労もあるかもしれないが、決勝戦という気持ちの高揚が身体にいつも以上の負荷を与えていたのだろう。
確かに足の吊りは回復するだろう。しかし、アドレナリンでカバーできる範囲さえも超えてしまっていると考えていた方が良い。
清水の交代で春一番高校のコート上5人全員が身長150センチ代になった。
「ここだ!」
冷静な阿久には珍しい、怒声が響き渡り、中三高校の容赦ない反撃が始まった。
捨て身のトップギャラン
タイムアウト明け、春一番高校ボールでプレーが再開された。
交代で入った岩崎と石野は、明らかに地に足がついていない。動きに緩急もなく効果的な攻撃につながらない。
伊藤、田中の攻撃のイメージと噛み合っていないのは明らかだ。攻めあぐねた結果、24秒バイオレーション(攻撃側はマイボール24以内にシュートを打たないと相手ボールになる)で、ボールは中三高校に渡った。
中三の森は慌てなかった。センターの倉田にパスを通す展開を軸に攻めれば、得点確率は自ずと上がる。オフェンスリバウンドの奪取も容易いだろう。無理に3ポイントなど狙わず、確実に点数を重ねていく。それは言わずとも中三メンバー全員が寸分違わぬ思いとして共有された。
イメージ通り中三は倉田のゴール下から、そして、桜田のリバウンド奪取からとイージーシュートを重ねた。
一方、春一番高校は、藤村の個人技でねじ込んだシュート以外は、3分間得点の入らない時間帯が続いた。
後半11分、40-40。中三高校はついに春一番高校を捉えた。
さらに倉田がファールでもらったフリースローをきっちり2本決め40-42。
春一番の焦りから生まれたパスミスから森がレイアップを決めて連続得点。40-44。
その後、春一番伊藤の強引なカットインシュートが相手ファールをもらいフリースローを2本決めて42-44。
ここで、春一番高校森田は、あらたに交代のカード切った。後半13分を過ぎだった。
主力の伊藤、田中、藤村をさげ、榊原、高田、大場を入れた。
主力3人は到底納得がいかないという表情でベンチに下がった。
会場がどよめいた。森田は勝負を投げたのか。点差が大きく開き、勝敗が決した状況ではない。1、2年生に経験を積ませるにはあまりにも早い上に荷が重すぎる場面だった。
春一番高校は主力が下がり、全員控えメンバーとなった。
「トップギャランだっ!」
森田が叫んだ。
トップギャランとはフランス語で勇ましいという意味のギャランに、頂のトップをつけた造語である。春一番高校の夏合宿で、1年生部員対象にスタミナづくりの一環として行なっている超絶ハードなディフェンス練習である。勇ましい集団としてトップを目指すという想いで森田がトップギャランと命名した。
1-3-1のオールコートのプレスディフェンスで、全てのボールに対しダブルチームで激しく当たり、相手のパスコースを限定させてカットを狙うものである。これを10分間3セット行なう。この練習のキツさに耐えかね、1年生部員の2/3が退部するという。言い換えれば、このトップギャランに耐えた者だけが春一番高校部員として認められるということでもある。
この戦術は、どんなに鍛えていても試合では体力的に3分ほどしか持たない。 森田は残り7分ある段階で賭けに出た。
体力的にはフレッシュな5人が、中三高校に激しく襲いかかってきた。高度な戦術に戸惑うこともなく「とにかく激しくディフェンスで当たるのみ」という開き直りもプラスに働いた。
バックコートでボールを持った中三の森に二人がダブルチームに行き、ドリブルコースとパスコースを消しにかかった。予期せぬダブルチームに森は完全に動きを止められた。5秒以内にパスを出さなければタイムバイオレーションを取られる。僅かに視界に入った山口にパスを出したところ、春一番の石野が狙っていた。見事にパスカットし、フリーでレイアップを決めた。
次のプレーでもゴール下からのファーストパスを受けた山口が捕まった。二人に囲まれながら大きなピボットでパスコースを探したが、二人のファールすれすれの当たりの強さに思わず軸足が動き、トラベリングの反則を取られた。 春一番高校は中三高校が動揺して足が止まっている隙を逃さず、すぐさまゴール下にいた高田にパスを通し易々とシュートを決めた。
春一番高校が46-44と再逆転。中三高校に傾いてた流れは瞬く間に春一番高校に移った。
ベンチでは痙攣とこむら返りでさがっていた清水と岡田がアップを開始し、回復をアピールしていた。
最終章
次のプレーでも、中三高校はオールコートプレスの網にかかりターンオーバー。48-44。3連続ゴールを奪われた。たまらず中三高校はタイムアウトをとった。
「なぜそんなに浮き足立つ。相手は控え選手だぞ。これまでにもあの程度のプレスは受けてきただろう。それともディフェンスを振り切ってパスをもらえないほど、足が動かないのか。」
阿久は爆発しそうな怒りを必死に抑えながら言った。
「すみません」
桜田が小さく返事をした。
「動きに緩急をつけて、先に先に動き出せ。必ずオフェンス側が一人余っている状態であることを忘れるな。あのプレスはあとワンプレーしか続かない」
タイムアウトで落ち着きを取り戻した中三高校は、フロントコートまでボールを運んだ。阿久の言ったとおり、春一番高校のプレスも交代当初の当たりのレベルを100とすれば、70くらいまでに落ちてきた。
一度プレーが落ち着けば、相手は全員が高さも戦術もない控え選手だ。森→山口→石川→倉田とパスをまわし、ゴールを返した。
後半も残り4分。
ここで春一番高校が2度目のタイムアウトをとった。
森田はトップギャランを見事に遂行して逆転劇を演じた控えの5人をねぎらった。怪我の巧妙とはまさにこのことだ。そして、
「スターターの5人、イケるか!」
とベンチを振り返った。
「はい」
伊藤、田中、藤村、岡田、清水の5人は迷わず同時に返事を返した。
「残り4分だ。言うまでもない。集大成のつもりで全力で行け」
中三高校ベンチ。
「春一番は全とっかえで、またスターター5人に戻る。ガラッと変わる戦術の変更に戸惑うな。相手がどうのこうのじゃない。残り4分、悔いのないよう自分たちのバスケしろ。」
両監督は先ほどまでとはうって変わり、冷静に選手を送り出した。
ゴールが見えてきたことにより、両選手とも体力的に厳しい時間帯はすぎた。緊張感と研ぎ澄まされた集中力がプレーレベルをワンランク引き上げた。両チームとも放つシュートが落ちることなく得点を交互に積み上げ、残り1分半を切ったところで、春一番60-中三58。
いよいよ激闘決着の刻が近づいてきた。
中三高校のエンドラインからのスローイン。残り時間を考えると攻撃の機会は2〜3回だろう。このオフェンスで同点に追いつておかないと厳しい展開になる。桜田、山口の個人技か倉田のセンタープレイか、攻撃の選択ミスは許されない局面だ。
森はまずハイポストに入った倉田にパスを預けた。その瞬間、桜田と山口がクロスするように両コーナーへ走り出した。春一番のディフェンスが一瞬、今日好調の桜田側に引き寄せられた。それをわずかに視界で捉えた倉田は迷わず山口にパスを送った。
山口はフリーでボールを受け、ミドルレンジからシュートを放った。ボールはノータッチでゴールネットに吸い込まれた。春一番60-60中三。中三高校が追いついた。
残り45秒。
ここで春一番高校は最後のタイムアウトをとった。
森田はキャプテンの伊藤に聞いた。
「現状、まだお互いチームファウルが少なく、ファウルゲームに持っていってもフリースローにはならない。そこで選択が迫られる。次の攻撃でもし、しっかり時間を使ってスリーポイントが決まれば、残り時間からして逃げ切れるだろう。次の中三の攻撃で桜田のスリーポイントだけをケアすればいい。しかし、外れた時のリスクは高い。確実に2点を取りに行いくのか。お前ならどっちを選ぶ。」
伊藤は迷わず答えた。
「2点を確実に取りに行きます。派手さはなくても確実に組織プレイでゴールを重ねる私たちのプレースタイルを最後まで貫こうと思います。その結果敗れたとしても悔いはありません。」
森田は頷いた。
「分かった。もしゴールが決まったら、オールコートプレスではなく、すぐに引いて守りを固めろ。最後の中三の攻撃でゴールが落ちればタイムアップだ。最悪同点で延長に持ち込むためにも、桜田のスリーだけは徹底的にケアしろ。」
「はい。」
イメージは共有された。春一番ボールでプレイ再開、残り45秒。
伊藤はドリブルで進みながら考えた。トライアングルオフェンスの集大成を見せるのはここだ。この時のために3年間練習してきたといっても過言ではない。24秒ルールギリギリで確実にフリーで1本決める。
伊藤→田中→藤村と間髪入れすにパスを回した。藤村にボールが渡ったと同時に、センターポジションの清水がガードのポジションまで上がってきてパスを受けた。それに中三の倉田が一瞬だけつられた。そのスペースにすでに伊藤が走り込んでいた。清水は伊藤にバウンドパスを通した。フリーとなっていた伊藤は確実にゴールを決めた。
春一番62-60中三。残り21秒。
阿久はためらったがタイムアウトは取らなかった。攻撃のリズムが悪いわけではない。下手に流れを切るのは得策ではないと考えた。
中三は森がボールを運び最後の攻撃を組み立てる。桜田にはピッタリと伊藤が厳しくマークしていた。それでも最後は桜田に託すしかないと森は考えた。時間は刻々と流れていく。残り10秒となったところで桜田はパスを受けた。ゴールからはまだ遠い位置だ。
森が伊藤にスクリーンをかけ、桜田は一気にスピード上げ攻撃を仕掛けた。
9、8、7、6、5、4、3…。
伊藤をかろうじて振り切った後、スリーポイントラインにステップバックしてシュートを放った。決まれば逆転だ。
高い弧を描いたスリーポイントシュートは僅かにゴールに嫌われた。
勝負あった……かと思われたが、山口が絶妙なポジションでこぼれたリバウンドを取った。必死に藤村がブロックに入ったが、山口はゴール下の混戦状態から同点のシュートをねじ込んだ。
「ピー!」
主審の笛がなった。
藤村のブロックがファウルとなり、バスケットカウント。62-62の同点で山口にフリースロー・ワンショット与えられた。
残りは1秒。会場中に歓喜と悲鳴が交錯した。
相手にオフェンスリバウンドを奪われる。最後の最後に春一番高の弱点がでた。
ただ、ここは誰もがこれが最後だと桜田のシュートを見送っていた中、冷静にリバウンドのポジションを取っていた山口を褒めるべきだろう。
延長突入か中三高校優勝か。山口のフリースロー・ワンショットで決まる。普段の山口なら9割以上の確率で決めるだろう。しかし、状況が状況だ。腕が縮こまってもおかしくない。
先ほどの歓声が嘘のように場内は水を打ったように静まり返っていた。固唾を飲む音さえ聞こえてくるほどだ。山口がシュート前のルーチンでついたドリブルの音だけが会場中に響き渡っていた。山口は特別なことをするわけでも、必要以上に間を取るわけでもなく、いつものように、淡々と運命のフリースローを放った。
エアボールかと見まごうほど見事にネットのド真ん中にボールが収まった。
またしても会場中に歓喜と悲鳴。残り1秒で中三高校が1点をリードした。春一番はすぐにエンドラインからボールを入れ、伊藤が一か八かの超ロングシュートを放ったが、無情にもリングのはるか手前でボールがそれた。
試合終了。中三高校2連覇!
スタンドから無数の紙テープがコートに投げ込まれた。中三高校部員全員がコート中央に集まり喜びを爆発させた。桜田と山口が抱き合い、大粒の涙を流している。
一方で春一番高校はガックリと膝をつきうな垂れていた。スタータの5人は精魂尽き果てたか、控え選手の肩を借りないと立ち上げれないほど憔悴していた。残酷なまでのコントラスト。
両校がセンターサークルに整列し、挨拶を交わした。そして、お互いが健闘を称えあった。語り継がれるであろう激闘の果てに、ようやく春一番高校部員の顔にも笑顔が戻った。桜田も試合開始前には返せなかった微笑みを思い切り返した。
一年後…。
中三高校の桜田と森はバスケット推薦で入学した大学で、主力選手として活躍をしていた。
山口は交際していた同級生の三浦君と卒業と同時に結婚。
普通の女子大生、OLになりますと、と言っていた春一番高校の伊藤、田中、藤村の3人は、アイドルユニットとして歌手デビューしていた。
完
あとがき
私が小学校に入学したのが1974年、卒業が1979年。
以前、コラムでも少し触れましたが、この6年間は、半世紀以上の私の人生でピークともいえるほど、活き活きと輝いていた6年間です。自分史の中では「栄光の70年代」。どの年代よりも強い思い入れがあります。
この頃は団地暮らしだったので、歳上・歳下関係なく、遊び仲間には事欠きませんでした。学校の同級生より、団地仲間と遊んでいた時間の方がはるかに多かったと記憶しています。また、5つ上の姉がいたので、姉の友達のお姉さん、お兄さんたちにも随分と可愛いがられたものです。そのためか、同い年の子たちがまだ興味を示さないような話題(スポーツ、芸能等)にも数多く触れてたように思います。
その影響なのか、小学校1年の時にはアニメ以上にアイドルにハマり、親にねだって桜田淳子のシングルレコード「はじめての出来事」を買ってもらいました。EP盤(またはドーナッツ盤)というやつですね。確か500円だったかな。生まれて初めて手にしたアイドルのレコードでした。
当時はPCや携帯どころか、ビデオデッキ、カセットデッキすらない時代。曲を覚えるにはテレビかラジオのみでした。それでも、桜田淳子に限らず、今でも歌詞カードなしでワンコーラス歌える70年代アイドルのヒット曲は数知れず。恐るべき小学校時代の記憶力です。凄まじき視聴時の集中力。その1割でも勉学に向けてたら…そう思うこともしばしばありますが。
70年代を振り返る時に胸に渦巻く感情。それは懐かしさや郷愁といった言葉では済ますことのできない言い知れぬものがあります。歌謡曲に限らず、70年代の事象を見聞きするたびに湧き起こり、歳を重ねるごとに強くなっていくのです。私は勝手に「古き良き70年代依存症」と言っています。
そんな経緯もあってか、ふと、70年代アイドルへの思い入れを、コラムとは別の形で表現してみようと考えたのです。
設定は意外にあっさりと決まりました。
中三高校の主力は、主人公の桜田淳子、山口百恵、森昌子の中三トリオ。
桜田淳子の出身地秋田県の代表で、監督は桜田淳子を見出した阿久悠。
春一番高校の主力は、小5の時に見た後楽園球場での解散コンサートの熱狂ぶりに衝撃を受けたキャンディーズ。
ランちゃんの出身地東京都代表。監督はデビュー曲「あなたに夢中」を作曲した森田公一。
桃色学園の主力は、小3の時、刺激的な衣装と振り付けにドギマギしたピンクレディの二人。
二人の出身地静岡県代表。監督は楽曲のほとんどを作曲していた都倉俊一。
元祖高校の主力はアイドルの元祖ともいえる天地真理、麻丘めぐみ、南沙織。
麻丘めぐみの出身地大分県代表。監督は南沙織の主人である篠山紀信。
各校の勝ち上がり方や戦い方にも、当時のアイドルの勢力図をそれなりに反映しています。
元祖アイドルの天地真理、麻丘めぐみ、南沙織の人気に陰りが見え始めた頃、桜田淳子がトップアイドルに駆け上がり、その後、山口百恵にその座を明け渡します。
そんな中、ピンクレディが登場。社会現象となるほどのスーパーアイドルに。
一方で先にデビューしていたキャンディーズは中々ヒット曲に恵まれず低迷していましたが、ランちゃんをセンターポジションに置いてからヒット曲を連発するようになります。そして、人気絶頂期に飛び出した有名なセリフ「普通の女の子に戻りたい」。ピンクレディが2年ほどで急激に人気が衰えていくのを尻目に、キャンディーズは世論を巻き込みながら、あの伝説の後楽園解散コンサートへとつなげていきます。
この勢力図的にいったら優勝は春一番高校にすべきだったのでしょうが、そこは個人の思い入れということで。
脇役で登場する選手も適当に名前を付けた訳ではなりません。倉田(まりこ)、石川(ひとみ)、岡田(奈々)、清水(由貴子)、高田(みづえ)、榊原(郁恵)、岩崎(ひろみ)、(太田)裕美…と、すべて70年代アイドル。
記憶が鮮明だったので、いちいち調べなくても筆が進みました。バスケットの描写に関しては、私が経験者だったのでさほど苦労もなくといった感じでしたね。ただ、経験者と言っても36年前のことなので、当時と今ではルールや戦術、技術、そしてそれらの名称もだいぶ変わっていたので、そこはちょいちょいネットやバスケの動画で確認作業はしました。
ヒット曲のタイトル(ひねったタイトル含む)も随所に散りばめています。
「さよならの向こう側」を「トイレの仕切りの向こう側」にしたりと、無理くり感も満載でしたけど。
若い人はそんな仕掛にひとつも気づかなかったでしょう。
それは「若者に媚び諂らわない」という通常コラムと同様のコンセプトで書いた次第です。
疲れました。キャンディーズ風に言えば、「もう連載はしません。普通のコラムに戻ります!」と言ったところでしょうか。
70年代、バンザイ!
ではでは。