Column

2022年3月31日
名画をモチーフにした隠れた名曲


観たい、観たいと思いながら
なかなか観れなかった
イタリア映画の名作「道」を
ようやく鑑賞することができました。

感想やあらすじを語るには
今さら~という気もしますし、
名作なのでちょっとググれば、
私より遥かに気の利いた
評論や感想が溢れていますので、
そこは省きます。

ざっくりと乱暴にいうと
本能を理性で抑えられない
言動が粗野な男が、
大切な女性を失った悔恨の情の話です。

実はこの映画のラストシーンを
見事に切り取った歌があります。

こんな歌詞です。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
1
とある小さな海岸沿いの町 
俺はお前と出会った
埃っぽいトラックのクラクション
あせたドライブインの
片隅にお前はいた

恋に落ち 虜になった
だけど心離れ いつか別れてきた
ひとときは戯れか
かえすすべも知らない
さざ波のような 傷だけが残った

※Blue Letter
涙のつぶで綴ったような
Blue Letter
きれぎれの文字が俺を痛めつける

2
車をとばし港に行ったもんさ 
桟橋にもたれ二人海を眺めていた
その年お前を孕ませてしまうまで
穏やかに晴れた夏は続いた

(※繰り返し)

3
車の残骸 立ちならぶ浜辺 
元気だと書いて よこした便り燃やして
かつて輝いていた 二人だけの浜辺
今はあともなく 深い闇の中

シャツを脱ぎすて 海に入ってゆく
暗くうねる波の中に俺は入ってく
脆かった月日と おとせるはずのない
罪とおまえのために今夜涙を流す

(※繰り返し)

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

甲斐バンド「BLUE LETTER」。
作詞作曲:甲斐よしひろ
1982年に発売された
アルバムの中の1曲です。

恋愛映画ではない「道」と
ラブソングの「BLUE LETTER」が
どうリンクしているのか。

「道」を観た人なら分かるでしょうが
リンクしているのは3番の歌詞。
甲斐氏本人も「道」を観て書いたと
言っていました。

特に3番のラスト2行に関しては、
「道」のラストシーンを
紹介する表現として
これ以上のものは見当たりません。
しかもわずか30字ほどで。

もちろんセリフの切り取りではなく、
映像の切り取りですからね。
実際ラストシーンに台詞は一切なく
映像だけです。

私だったら
「後悔してもしきれない、
本当にごめん」
この程度の表現しか出てきません。

男性のエゴや幼稚さ、
女性の一途でまっすぐな思い。
失わないと気づくことのない
身近にある(いる)
かけがえのないもの。

「BLUE LETTER」の歌詞の
根底にあるのも同じですね。

状況描写と心情描写を巧みに使い、
余白を残しながら
聞き手の想像力を掻き立てる。

数十行の歌詞なのに、
一本の映画、
一編の小説のように書き上げる
甲斐氏の絶妙な
言葉選びのセンスと世界観。

1番の歌詞はプロローグ。
出会いのシチュエーションです。

「埃っぽいトラックのクラクション」
「あせたドライブイン」

一気に映像が浮かんできます。
恋の始まりなのに、
すでに、その後の危うい恋の行方、
切なさを漂よわせる言葉遣い。

「返すすべも知らない
さざなみのような傷」

この比喩もホント巧みで、
3番ではさざなみどころでは
なくなってきます。

2番の回想シーンです。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

その年お前を孕ませてしまうまで
穏やかに晴れた夏は続いた

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

「孕ませてしまうまで」

ほぼ放送禁止用語ですが、
仮にここを
「傷つけてしまうまで」
「悲しませてしまうまで」とすると
普通のラブソングになってしまうと
考えたのでしょう。

悔恨の情を語る3番の歌詞に、
ズッシリとした重みを持たせるために
あえて「孕ませて」を
使ったと推測されます。

そのあとに続く
「穏やかに晴れた夏は続いた」
という表現とのコントラストも見事。

そして3番。
上にスクロールするのが面倒な
人のためにもう一度書きます。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

車の残骸 立ちならぶ浜辺 
元気だと書いて よこした便り燃やして
かつて輝いていた 二人だけの浜辺
今は跡もなく 深い闇の中

シャツを脱ぎすて 海に入ってゆく
暗くうねる波の中に俺は入ってく
脆かった月日と おとせるはずのない
罪とおまえのために今夜涙を流す

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

はぁ~、詩人だな~。

甲斐氏の
ドライでざらついた唯一無二の声が
一層切なさを増幅させています。


https://youtu.be/rDO5b3eARTI


進みすぎた感性とブレない意思で
疾走していた20代の甲斐氏の楽曲。

当時は響かなかったのに、
歳を追うごとに(薄毛の進行とともに)
染み入ってくるんですよね。

ではでは。