Column

2021年3月26日
熱闘!代々木第二体育館
中三高 VS 春一番高(第四話)

連載第四話の前に。

「私は〇〇派」の話、
よく盛り上がりますよね。
熱くなって喧嘩腰になる人もいます。

こしあん派 < 粒あん派
きのこの山派 < たけのこの里派
ネコ派 > 犬派
Windows派 < Mac派

キリがないですね。

聖子派 > 明菜派
百恵派 < 淳子派

(「<」「>」は私の好み)

連載「熱闘~」の人物は
桜田、山口、森より
松田、中森、小泉の方が、
ピンとくる人が多かったでしょう。

ただ、80年代以降に関しては
それほど思い入れがないのです。
20歳以降は時の流れが早すぎて
些細な出来事に関する
鮮明な記憶がありません。

特に歌謡界に関しては
古ければ古いほど
鮮明に覚えているという不思議。

私の永遠のアイドルは
中三トリオであり、
新御三家であり、
キャンディーズ、ピンクレディー
なのです。


ということで、
中三高校 VS 春一番高校、第四話です。


前半終了間際に桜田が強引にシュートを決め、39-29と10点差で折り返すことになった。10点差以内で折り返せたのは中三高校にとっては大きい。桃色学園にとっては想定外の点差だっただろう。後半にかかるプレッシャーは大きくなる。
ハーフタイム…中三高校ロッカールーム。(注:当時は4クォーター制ではなく、前後半20分制)

「いいぞ。10点差は上出来だ。相手はダブルスコアぐらいをイメージしていたはずだ。増田が機能していないことで、だいぶ焦りを感じていることだろう。事実、桜田のマークに増田はかなりフラストレーションがたまり、自分のリズムでシュートが打てていない。ファールもすでに3つ。桜田はさらに攻めやすくなるだろう。増田に対しては後半も指示は同じだ」

桜田は阿久の指示を上の空で聞いていた。山口のディフェンスが気になってならない。

「どこか悪いの?」

桜田は山口に聞いた。

「どこも悪くないわ」

「ディフェンスの動きが悪いように見えるんだけど」

「ごめんね。ちょっとやられすぎた。でも、開始早々に抜かれたときに思ったの。もし、あの後ムキになって彼女のカットインを止めにいっていたら、今頃「5ファール」で退場になっていたと思う」

「じゃあ、なす術無しってこと」

「私もただ黙って抜かれていたわけじゃない。あなたの調子がよくて、離されずにきていたから、後半に勝負をかけようと思ったの。だから、前半は根本さんの動きをじっくり観察させもらったわ。おかげで前半残り5分くらいに気づいたので。根本さんの“クセ”」

「クセ〜? 私の足の臭い?」

「そう。そう。なんちゃって。根本さんのクセのこと。カットインのパターンは2つしかないの。パスを受けたあと、一旦私から離れるようにゆっくりドリブルをし始めたときは、一度右に肩を入れてから左に抜いてくるの。それがひとつ目のパターン。もうひとつは、比較的ゴールに近いところでパスを受けたときは、ドリブルをしないで私との距離を測るの。そして、私が少し距離を詰めると抜きにくるんだけど、それは右、左と交互にフェイクを入れ、必ず右から抜いてくるの。だから、後半はこっちからディフェンスで仕掛けてみるわ」

桜田はあらためて山口の冷静さに脱帽した。

「山口を信じろ。必ず根本を止める、と言っただろ」

 阿久が声を落として言った。

「監督も分かっていたんですか」

「ああ。立て続けに3本くらい、簡単に抜かれたのを見た時に気づいたよ。いたずらにファールを増やすよりは、しばらく様子を見ることにしたな、と。また、山口と同じ、前半残り5分前くらいに私も根本のクセに気づいた。それはまさに山口が言った通りだ」

桜田はキャプテンとしての自分を責めた。監督、そして、山口の判断が正しいのだ。自分の考えは、これまで桃色学園の前に敗れ去ってきた高校と変わらない。冷静に考えれば分かることだ。いたずらにファールを重ねて止めても意味がない。山口の退場は中三高校の敗北を意味するものだ。桃色学園に敗れてきた高校も、根本のマークに集中するあまり、ファールを重ねたり、ダブルチームにいって増田をフリーにし、次々と3ポイントシュートを決められていたのだ。 阿久はハーフタイム最後の言葉を贈った。

「前半のようなことはない。根本のカットインは山口が対応してくれるはずだ。オフェンスはとにかく桜田が増田のサイドから1対1で仕掛けろ。止められたら一旦ボールを森に預ける。そして倉田が増田にスクリーンをかけ、桜田は左サイドに流れろ。まずフリーでボールがもらえるはずだ。後は確実に決めていけ」

ハーフタイム…桃色学園ロッカールーム。
監督の都倉は中三高校の予想外の粘りに若干の焦りを感じていた。 『甘く見ていた。全国を制覇するチームというのはやはり底力がある』と。 しかし、その焦りは言動に出さず努めて冷静に選手に向かった。

「いいか、みんな。全く問題はない。我々のペースだ。向こうはすでにいっぱいいっぱいだ。増田はもっと冷静になれ。桜田ごときのディフェンスに何をいらついている。とにかく冷静にまずは1本決めろ。すぐにいつもの感覚を取り戻せ。それから後半はディフェンスをマンツーマンに切り替える。根本は桜田、増田は山口のマークにつけ。今日の桜田はシュートタッチがいい。なるべくフリーでボールを持たせたくない。根本が徹底マークしろ。今日の中三高校は桜田だけ抑えれば問題ない」

「はい」

根本は警部のような敬礼で都倉の言葉を受けた。 ハーフタイムも残り1分になり、両校の選手が再びコートに立った。


つづく。