Column

2021年3月12日
ごめんね、カマキリ。

残酷な昆虫採集と
親父の昆虫虐待の結末。

ここ何本か、
親父ギャグ検定試験みたいで
大変恐縮です。

前回の桃野の話について
読者から「あれは作り話ですか?」
という質問がありました。

けっして作り話ではありません。
「実話」です。
だから真弓(※1)さんも大喜び。

オチのために桃野を仮名にした以外
ほぼ実話です。

これまでのコラムで、
実話でなかったのは
サーモン豊作(2021年2月23日)
ザンショウオ(2019年9月7日)
だけです。
ハナシブキ(2018年9月27日)
でさえ実話です。

コラムですから基本実話ベースです。


さて、

思い出すだけで、
チクッと胸が痛くなるような
記憶ってありますよね。

大失恋や誰かとの死に別れとか、
そんな大袈裟な記憶ではありません。

以前、記憶の欠片シリーズでも
書きましたが
他人が聞けば、
どうでもいい些細なことだけど、
当人にはとても切ない記憶です。

今回はそんな切ない記憶の一片です。
もちろん実話です。

小学2年の夏休み。
もう40年以上前の話です。

夏休みの宿題で最も厄介だった
自由課題(研究)で、
私が選んだのは昆虫採集。
男子小学生の鉄板ですよね。

土を入れて雑草を適当にまぶした
大きめな水槽の中に捕まえた昆虫を
無造作に入れていました。
研究とは程遠いですけど。

蝶々、セミ、クワガタ、
コオロギ、カマキリ…

この時点でもう残酷。
気付いたらほとんどの昆虫は
死んでいました。

死んでしまった昆虫は、
昆虫採集セットに入っていた
腐食防止の保護液を注射して、
別の箱に移します。

その時までは、
まだそれほど心は痛みませんでした。

夏休み最終日の朝、
水槽を覗いたら、1匹の昆虫が
私を見上げてきました。

大きなカマキリです。
他の昆虫を餌にして
生き延びてきたのでしょう。

前足を顔の前で忙しく交差させながら
健気に私を見つめています。
「よう!餌くれよ」と
あいさつをしているようでした。

昆虫採集セットには
殺虫液というのも入っていて、
それを注射すればカマキリくんも
ジ・エンドです。

この時私は、カマキリが
とても愛おしく感じていました。

カマキリとコミュニケーションが
取れたような
ワクワク感に包まれながら
注射を打つのをためらっていました。

カマキリはラインナップから外して
しばらく飼おうかなと
気持ちが揺れ動いた時、
ふらっと私の親父がやってきました。
(嫌な予感がしますよね)

昆虫採集セットを傍に置いて
カマキリを眺めている私を見て、

「どうした?」
「やり方がわからないのか」

と、おもむろに注射器を持って
殺虫液をカマキリにぶすり。

「簡単だろ」
と、ドヤ顔の親父。

ためらいがちに打ったならまだしも、
ワクチン注射を打つかのように
真っ直ぐにぶすり。

桃野じゃないけど絶句です。

あの日の朝以来、
今でもカマキリを見ると、
胸が痛くなるのです。

息子の宿題を手伝ったつもりの
親父を責めるつもりはないけれど、
ギャグにもならない
親父の昆虫虐待

略して…(※2)

ではでは。


※1:実話(五輪)真弓(検定4級)
※2:カマキリのヒ・ミ・ツ(検定5級)