Column

2021年5月25日
熱闘!代々木第二体育館
中三高 VS 春一番高(最終回)


最終回の話の前に。

昔に比べれば1/10ほどに
熱量は減りましたが、
一応プロ野球はジャイアンツファンです。
なので他に見るものがない時は、
テレビ観戦で応援しています。

毛根こめて。

ということで、
少し間が空きましたが、
いよいよ中三高校 VS 春一番高校
最終回です。

中三高校のエンドラインからのスローイン。残り時間を考えると攻撃の機会は2〜3回だろう。このオフェンスで同点に追いつておかないと厳しい展開になる。桜田、山口の個人技か倉田のセンタープレイか、攻撃の選択ミスは許されない局面だ。
森はまずハイポストに入った倉田にパスを預けた。その瞬間、桜田と山口がクロスするように両コーナーへ走り出した。春一番のディフェンスが一瞬、今日好調の桜田側に引き寄せられた。それをわずかに視界で捉えた倉田は迷わず山口にパスを送った。
山口はフリーでボールを受け、ミドルレンジからシュートを放った。ボールはノータッチでゴールネットに吸い込まれた。春一番60-60中三。中三高校が追いついた。

残り45秒。
ここで春一番高校は最後のタイムアウトをとった。 森田はキャプテンの伊藤に聞いた。

「現状、まだお互いチームファウルが少なく、ファウルゲームに持っていってもフリースローにはならない。そこで選択が迫られる。次の攻撃でもし、しっかり時間を使ってスリーポイントが決まれば、残り時間からして逃げ切れるだろう。次の中三の攻撃で桜田のスリーポイントだけをケアすればいい。しかし、外れた時のリスクは高い。確実に2点を取りに行いくのか。お前ならどっちを選ぶ。」

伊藤は迷わず答えた。

「2点を確実に取りに行きます。派手さはなくても確実に組織プレイでゴールを重ねる私たちのプレースタイルを最後まで貫こうと思います。その結果敗れたとしても悔いはありません。」

森田は頷いた。

「分かった。もしゴールが決まったら、オールコートプレスではなく、すぐに引いて守りを固めろ。最後の中三の攻撃でゴールが落ちればタイムアップだ。最悪同点で延長に持ち込むためにも、桜田のスリーだけは徹底的にケアしろ。」

「はい。」

イメージは共有された。春一番ボールでプレイ再開、残り45秒。
伊藤はドリブルで進みながら考えた。トライアングルオフェンスの集大成を見せるのはここだ。この時のために3年間練習してきたといっても過言ではない。24秒ルールギリギリで確実にフリーで1本決める。

伊藤→田中→藤村と間髪入れすにパスを回した。藤村にボールが渡ったと同時に、センターポジションの清水がガードのポジションまで上がってきてパスを受けた。それに中三の倉田が一瞬だけつられた。そのスペースにすでに伊藤が走り込んでいた。清水は伊藤にバウンドパスを通した。フリーとなっていた伊藤は確実にゴールを決めた。
春一番62-60中三。残り21秒。

阿久はためらったがタイムアウトは取らなかった。攻撃のリズムが悪いわけではない。下手に流れを切るのは得策ではないと考えた。
中三は森がボールを運び最後の攻撃を組み立てる。桜田にはピッタリと伊藤が厳しくマークしていた。それでも最後は桜田に託すしかないと森は考えた。時間は刻々と流れていく。残り10秒となったところで桜田はパスを受けた。ゴールからはまだ遠い位置だ。
森が伊藤にスクリーンをかけ、桜田は一気にスピード上げ攻撃を仕掛けた。
9、8、7、6、5、4、3…。
伊藤をかろうじて振り切った後、スリーポイントラインにステップバックしてシュートを放った。決まれば逆転だ。











高い弧を描いたスリーポイントシュートは僅かにゴールに嫌われた。
勝負あった……かと思われたが、山口が絶妙なポジションでこぼれたリバウンドを取った。必死に藤村がブロックに入ったが、山口はゴール下の混戦状態から同点のシュートをねじ込んだ。

「ピー!」

主審の笛がなった。

藤村のブロックがファウルとなり、バスケットカウント。62-62の同点で山口にフリースロー・ワンショット与えられた。
残りは1秒。会場中に歓喜と悲鳴が交錯した。

相手にオフェンスリバウンドを奪われる。最後の最後に春一番高の弱点がでた。
ただ、ここは誰もがこれが最後だと桜田のシュートを見送っていた中、冷静にリバウンドのポジションを取っていた山口を褒めるべきだろう。

延長突入か中三高校優勝か。山口のフリースロー・ワンショットで決まる。普段の山口なら9割以上の確率で決めるだろう。しかし、状況が状況だ。腕が縮こまってもおかしくない。

先ほどの歓声が嘘のように場内は水を打ったように静まり返っていた。固唾を飲む音さえ聞こえてくるほどだ。山口がシュート前のルーチンでついたドリブルの音だけが会場中に響き渡っていた。山口は特別なことをするわけでも、必要以上に間を取るわけでもなく、いつものように、淡々と運命のフリースローを放った。




エアボールかと見まごうほど見事にネットのド真ん中にボールが収まった。
またしても会場中に歓喜と悲鳴。残り1秒で中三高校が1点をリードした。春一番はすぐにエンドラインからボールを入れ、伊藤が一か八かの超ロングシュートを放ったが、無情にもリングのはるか手前でボールがそれた。

試合終了。中三高校2連覇!
スタンドから無数の紙テープがコートに投げ込まれた。中三高校部員全員がコート中央に集まり喜びを爆発させた。桜田と山口が抱き合い、大粒の涙を流している。

一方で春一番高校はガックリと膝をつきうな垂れていた。スタータの5人は精魂尽き果てたか、控え選手の肩を借りないと立ち上げれないほど憔悴していた。残酷なまでのコントラスト。

両校がセンターサークルに整列し、挨拶を交わした。そして、お互いが健闘を称えあった。語り継がれるであろう激闘の果てに、ようやく春一番高校部員の顔にも笑顔が戻った。桜田も試合開始前には返せなかった微笑みを思い切り返した。


一年後…。
中三高校の桜田と森はバスケット推薦で入学した大学で、主力選手として活躍をしていた。 山口は交際していた同級生の三浦君と卒業と同時に結婚。

普通の女子大生、OLになりますと、と言っていた春一番高校の伊藤、田中、藤村の3人は、アイドルユニットとして歌手デビューしていた。