Column

2021年4月16日
熱闘!代々木第二体育館
中三高 VS 春一番高(第十話)


第十話の前に。

のっぴきならない
状況になってきました。

変異株。

こんな状況、ジョン・レノンも
イマジンできなかったでしょう。

さらに
ヒマジンが増え、
イソジンが売れるんでしょうね。


ということで
コロナは第四波ですが、
連載は第十話です。


ハーフタイム。中三高校ロッカールーム。
阿久は選手を中央に集め、後半の指示を切り出した。

「後半はマン・ツー・マンでいく」

桜田がこの指示にすかさず反応した。

「監督、それでは向こうの思うツボではないですか。スクリーンやカットで、さらに崩される可能性があります」

「そのとおりだ。しかし、それを逆手に取る。マン・ツー・マンにすれば、向こうはボールの有るところはもちろん、無いところでもスクリーンを多用してくるはずだ。我々としてはわざとスクリーンをかけさせる。ここからがポイントだ。スクリーンをかけられたら、迷うことなくすぐにマークをスイッチしろ。スイッチの隙間を相手に与えるな」

「スキマスイッチね」

森が感心したように呟いた。

「タイミングが少しでも遅れると、向こうはすぐにそこをついてくる。本来スクリーンをかけられた時は、その時の状況を見てスイッチか否か判断をするが、その一瞬の間合いを生ませることがオフェンスにおけるスクリーンの効果だ。しかし、最初からスイッチを前提に対応すれば、その間合いは最小限に抑えられる。春一番には長身選手が一人もいないから、スイッチしたことによるミスマッチも生まれない。ゾーンで守るより、この方がフリーの選手を作らせる確率は減ってくるはずだ。後半のディフェンスではこれを繰り返せ。必ずオフェンスのリズムが乱れてくるはずだ」

さすが監督だ。桜田は思った。スクリーン戦術とはフリーとなる選手のスペースを作ることと、スイッチによるミスマッチを生むことが主な目的だ。しかし、スイッチだけを頭に入れて対応すれば、スペースを与えることも防げるし、マークする相手が変わったところで、相手の身長はみんなドングリの背比べで、ミスマッチは生じない。確かに効果的かもしれない。

「どう思う?」

桜田は山口に問いかけた。

「いいと思う。 “必ずスイッチ”という前提の守りはそんなに難しくないし」

山口は幾分明るくなった表情で答えた。

「他に何か策は?」

桜田は山口の秘めたる策に期待した。

「具体的な策はない。ただ…」
「ただ、何? 」

「前半の終わりの方は、春一番のイージーなシュートミスにも助けられたところもあったしね。14〜15点離されていてもおかしくはなかった」

「まだ運があるということ?」

「あれは確かにミスかもしれないけど、私はシュートの精度が落ちてきていると思う。淡々とやっているようだけど、決勝ということで最初からかなり飛ばしてきていたし。しかも、連戦の疲れもある。高度な戦術だから競っている時は、ずっと固定のメンバーで戦っているみたいね。他の選手が入るとあのリズムでは攻撃ができないんだと思う。点差が開けば交替で主力を休ますこともできるけど、私たちが食い下がってきているから、なかなか交替もできない。ディフェンスでも清水さんが私のカバー、岡田さんはあなたと倉田のオフェンスリバンド阻止で相当のエネルギーを使っている。監督の言うようにボディブローが効いているはず。最後の10分は足が止まってくるわ。勝負は残り10分だと思う」

確かにあの戦術に費やすエネルギーは相当だろう。いくらスタミナがあるとはいえ、準々決勝から数えて3連戦目だ。疲労が出てきても不思議ではない。

春一番高校のロッカールーム。

疲労の色を見せる選手たちに向かって、監督の森田が重い口を開いた。
「15点差がついたら交互にメンバーチェンジをしていく予定でいたが、さすが中三だ。我々の弱点を徹底的についてきている」

そこで森田は言葉を切った。運動量の多い田中、岡田、清水の3人を後半開始から5分ほど、同点あるいは逆転されるリスクを承知で休ませ、残り15分の勝負に出るか。それとも疲労は承知で、最後まで頑張ってもらうか。幸い、伊藤と藤村はまだ元気なようだ。田中も疲れを技術で補える選手であり問題ないだろう。しかし、岡田と清水の足が止まった場合、ゴール下を完全に支配される。

「岡田、清水、後半もフルタイムいけるか?」

森田の問いに二人は、迷わず「はい」と答えた。
しかし、声には明らかに生気が無かった。チームの弱点である高さを、162センチの岡田と169センチの清水が巧みなポジショニングと豊富な運動量でカバーしてきた。この二人の存在があって、はじめて伊藤、田中、藤村3人のプレーは活きてくる。 トライアングルオフェンスは女子高校バスケでは、完成形に近いレベルにある。しかし、戦術要素が強いため、固定のメンバーで戦ってきたリスクがここにきて出てきてしまった。控えの選手ではほとんどトライアングルオフェンスは機能しなくなる。

「大丈夫」
「任せて」

岡田と清水は気丈に答えた。

ハーフタイムも残り2分を切った。運命の後半。史上稀に見る激闘の後半戦幕開けのカウントダウンが始まり、両校選手は再びコートへと向かった。

つづく。