Column

2021年4月13日
熱闘!代々木第二体育館
中三高 VS 春一番高(第九話)


第九話の前に。

高校1年の時、
同じクラスだった少女Jの話。

少女Jとは数えるほどしか
話したことがないし、
名前どころか容姿すら
よく覚えてないんだけど、
あだ名だけはしっかり
覚えているんですね。

少女Jは「あしたのジョー」の
ファンだったらしく、
矢吹ジョーのイラストに
「Joe」の文字入り下敷き
を持っていました。

確かとなりか後ろの席にいたんだよね。

そしたら近くにいた別の女子が
少女Jの下敷きを見て言いました。

「じょえ~?」

「ジョーだよ!」

ムキになって反論する少女J。

その時以来、少女Jのあだ名は3年間
「じょえ~」になりました。

まさか、少女Jもその下敷きを
持って行ったばっかりに
あだ名「じょえ~」が命名されるとは
想像もしていなかったでしょう。

なんかこの話、
いつ思い出してもツボるんですよね。



ということで、
中三高校 VS 春一番高校、第九話です。


森がドリブルでフロントコートへボールを運ぶ。右サイドの山口へパス。スルスルと田中が間合いを詰める。
そこで石川が田中にスクリーンをかけた。すぐさま山口はドリブルでカットイン。春一番の岡田がフォローで山口につきにきたところを見計らって、センターの倉田へバウンズパスをして自分はゴール下へ切り込んだ。パスを受けた倉田は、すかさずその山口へパス。基本的なパス・アンド・ランだ。パスを受けた山口はそのままレイアップシュートにいったが、気付いたら春一番のセンター清水がしっかりと山口に体を寄せていた。
山口は無理な体勢でのシュートを余儀なくされ、ボールはリングに嫌われた。しかし、清水が山口のカバーに回ったため、リバウンドに入ることができない。ここで桜田は持ち前のジャンプ力で、すでにリバウンドポジションを取っていた伊藤の上から強引にオフェンスリバウンドを奪った。ファールギリギリのプレーだったが、笛は鳴らならずそのまま流された。桜田はゴール下からのイージーシュートを確実に決め、なんとかワンゴールを返した。

春一番高校唯一の弱点はやはり“高さ”である。最もリバウンドの強い清水をリバウンドポジションから外すことができれば、オフェンスリバンドをかなりの確率で取れる。フリーでのシュートは中々打たせてもらえないが、こぼれたシュートのオフェンスリバウンドを桜田、倉田が奪えれば、ゴール下からのイージーシュートに繋がる。春一番も絶妙なブロックアウトをしてくるため、リバウンド奪取はファールを取られるリスクも高い。しかし、春一番の足が止まるまでは、他に効果的なオフェンスはないだろう。桜田も山口も同様のことを考えていた。

春一番高校が唯一苦戦したのが2回戦のスクールメイツ高校戦だった。スクールメイツの183センチある高校日本代表候補のセンタープレーヤーにオフェンスリバウンドを奪われゴールを重ねられたのが苦戦の要因だった。この試合も桜田、倉田がブロックアウトをかわし、どれだけオフェンスリバウンドを奪えるかが重要になってくる。桜田はそのことをディフェンスに戻りながら倉田に告げた。

問題はディフェンスだ。春一番高校オフェンスのリズムをどこかで乱さないと、得点を重ねられるばかりだ。 山口はクールな頭脳で、その策を考えていた。パス、スクリーン、カット…必ずどこかにスキはある——。とりあえず前半の10分は、ツー・スリーのゾーンでしっかり守ること。その間にじっくりと見極めていけばいい。相手のスピードが最後まで続くとも思えない。

相変わらず、中三高校のディフェンスは、春一番高校のトライアングル・オフェンスに乱され、65%を超えるフィールドゴールパーセンテージでゴールを奪われていった。

一方、中三高校も清水をゴール下からおびき出し、リバウンドを桜田、倉田が奪ってゴールを決めるというワンパターンの攻撃で食らいついていった。しかし、ジリジリと点差は広がり、前半の11分を過ぎたところで、20対12と8点のリードを奪われていた。ここで中三高校の阿久がタイムアウトをとった。
「強いな」阿久はベンチ前に集まった選手にありのままに話した。
その言葉に桜田たちは、声もなくこくりと頷いた。

「大丈夫だ。前半はこのままでいい。泥臭く見えるが、オフェンスリバウンドを奪ってのゴールは、ボディブローのように聞いてくるはずだ。すでに、清水と岡田はかなり息が上がっている。しつこく同じ攻撃を繰り返していけ。とにかく1桁以内の得点差をキープすることだ。勝負は後半だ。策はある」

阿久の言葉を聞いても桜田は不安だった。オフェンスは泥臭くゴールを重ねていっても、相手オフェンスをとめるイメージが全く掴めなかった。
山口は下を向いたまま何か考えを巡らせているようだった。桃色学園戦のように、山口と阿久だけが既に打開策を見つけているのだろうか。山口はなにも話そうとはしない。ただ、寡黙に佇んでいる姿が、とても桜田の目に美しく映った。まさに美・サイレント。三浦くんとの交際が順調なんだろう。桜田は大事な場面で不謹慎なことを考えていた。

「さあ」という阿久の声に我に返った桜田は、
「監督の言葉を信じて、ディフェンスもオフェンスも1本1本、大事にいきましょう」

前半の残り9分は監督の指示通り、オフェンスもディフェンスも泥臭く食い下がった。傍目には春一番高校が完全にゲームを支配し、一方的な展開に映ったかもしれないが、前半を終わってみれば36-27の9点差で折り返すこととなった。


つづく。