Column

2021年4月6日
熱闘!代々木第二体育館
中三高 VS 春一番高(第七話)


連載七話の前に。

4月6日ですね。
この日何かあったような…

SIMフリー携帯の日?
違うな。

思い出せないな…。
う〜ん。

そうだ、私の誕生日でした。

日本人男性の平均寿命って、
「99(くく)」の最後と同じなんです。
9×9=81。

私は人生「6の段」が終了です。
平均まで生きられるとして後3段か。
早いな〜。

誕生日の思い出とかは
さっぱりないですね。

いつもクラスでいちばん早い
誕生日だったので
進級でクラス替えして、
ようやくクラスが打ち解けてきて

「ねえ、ねえ、誕生日いつ?」
「ぼく4月6日」
「ハハ、もう、終わっているじゃん」

こんな感じでした。



ということで、
中三高校 VS 春一番高校、第七話です。


1978年1月15日。決勝戦当日。

決戦は14時開始予定。中三高校部員は7時に起床し朝食をとった。

「おはよう」

森が能天気に話しかけてきた。
連戦で疲労はピークのはずだ。本来なら体が重く感じられるところだろう。しかし、気力が疲労をはるかに上回っていた。このメンバーで同じコートに立てるのは今日が最後。必ず有終の美を飾ってみせる。その思いは春一番高校も同じだ。ここまで来たら気力が上回ったほうが勝つ。
食欲はなかったが、それこそ気力で、納豆とみそ汁であきたこまちを2杯平らげた。隣では森が3杯目のおかわりをしていた。桜田はその頼もしさに笑みがこぼれた。

「11時にはロビーに集合。11時半に会場に入り、簡単な昼食をとる。12時半からアップ開始の予定だ」

中三高校が宿舎をバスで出発して20分、決戦の地、代々木第二体育館が見えてきた。

「なに、アレ?」

誰ともなく同じ言葉を口にした。
開場時間は13時だというのに、会場をとりまく長蛇の行列ができていた。昨日の準決勝の比ではない。すでに、そこかしこで応援合戦が始まっていた。

「徹夜組が200人以上出たって、今朝のニュースで言っていましたね」
人の良さそうなバスの運転手が言った。

「200人?!」森が大げさに驚いてみせた。
「今日は隣の第一体育館でやっても間違いなく満員になっていたでしょう、って」
そういいながら運転手は、慎重に関係者入り口前にバスを留めた。バスの周りはあっという間に黒山の人だかりとなった。 桜田の親衛隊たちの低く太い声がバスの周りでこだました。
山口には女性ファンからもたくさんの声がかかっていた。
中三高校部員たちはバスを降り、足早に入り口を抜けていった。後ろで警備員と男性ファンがもみ合っている声が聞こえた。

「ふ〜、なんか当事者たちより盛り上がっているみたい」

桜田がため息まじりに言った。

「これじゃ春一番高校は裏口でも使わないとまともに会場に入れないんじゃない」

冷静な山口もさすがにあまりの熱狂ぶりに驚きを隠せないでいた。
ちなみに春一番高校は混乱を避けるため、10時には既に会場入りしていた。

ロッカールームに入ると、サンドイッチで簡単な昼食とり、着替えを済ませた。コートに出るとすでに春一番高校部員がコート半分を使ってアップを始めていた。観覧席はもちろんまだ無人である。春一番高校部員のかけ声と、キュッ、キュッというシューズと床の摩擦音だけがやけに大きく会場内に響いていた。
中三高校もさっそく一方のハーフコートで、ランニング、ストレッチ、ディフェンスフットワーク、スクエアパスとルーチンのアップメニューを次々とこなしていった。
みんなと一緒にする最後の練習メニューがひとつひとつ消化されていく。

一通りのアップメニューを終えると、両校の選手はベンチ前で試合前最後のミーティングをはじめた。そして、両校のスターティング5とベンチ入りメンバー表が交換された。両校とも不動のスターターだ。

中三高校スターティング5
ガード:山口、森
フォワード:桜田、石川
センター:倉田

春一番高校スターティング5
ガード:伊藤、田中
フォワード:藤村、岡田
センター:清水

試合前のミーティングは、特に細かい指示もなく、昨夜のおさらい程度のものだった。
そのとき、一瞬地響きのような音がした。開場されたのだ。殺気立った3千人を越す観客が我先にとゲートから流れ込んできた。観覧席は、両校の応援団用に確保された一角以外は、あっという間に埋め尽くされた。立ち見までぎっしりだ。
早くも会場中から野太い声が降り掛かってきた。予想通り8割型は春一番高校の応援のようだ。

「まるでアイドルのコンサートね」

森が独り言のように呟いた。
続いて各校の応援団が指定の席についた。立錐の余地も無い、というのはまさにこのような状況をいうのだろう。成人の日ということもあり、会場内には晴れ着姿の女性も目につき、決勝の舞台に華を添えていた。
会場の外も、入場できなかった人たちが数千人に膨れ上がり、急遽街頭モニターが設置された。
空前絶後の盛り上がりの中、ミーティングを終えた両校選手は、最後のシュート練習を行なうため、再びコートに立った。そこで会場のボルテージはまた一段とあがった。
シュート練習をしながら桜田が山口に歩み寄る。

「ほらあそこ見て」

山口が指差したところには「頑張れ中三トリオ」の垂れ幕があった。そこには桜田、山口、森の似顔絵が描かれていた。数は春一番高校のそれには及ばないが、彼女たちを充分に勇気づけた。

「あの私の似顔絵、モンチッチじゃない」

森が唇を尖らせながら、二人のもとにきた。

「あら、そっくり。かわいいじゃない」と桜田。

会場は異様な雰囲気に包まれていたが、中三高校の3人に、その雰囲気に飲み込まれる様子はない。

試合開始2分前を告げるブザーが鳴り、両校の選手はシュート練習を終え、ベンチ前に集まった。 いよいよ、最後の決戦が始まる。



つづく。