Column

2021年3月12日
ごめんね、マリちゃん。

お別れの前夜に言った
「〇〇〇〇」に涙。

小学校4年の時、
住んでいた団地の駐車場に
野良の子猫がいました。

とても人懐っこい猫で
どうしても飼いたくなり、
家に連れて帰りました。

と、ここまでは
どこにでもあるような話。

ただ、住んでいた団地は犬猫NG。
どれだけ私が懇願しても、
両親は首を縦に振りません。
当然ですよね。

これもよくある話。

それでも私の熱に押されてか

「その痩せている猫ちゃんが
元気になるまで。」

という条件で承諾を得ました。

私はその子猫に「マリ」という
名前をつけました。

もちろんメス猫です。
なぜマリちゃんか。

たまたま見ていたテレビで
ハマチ(※1)のお刺身(※2)が
新鮮で安くて絶品という
お店を紹介していました。

ということで
「マリ」(※1)と名付けました。


半年もすると、マリちゃんも
すっかり大きくなり、
誰が見ても「元気になるまで」の
条件をクリアしています。

去勢もしていないので、
盛りがきて大きな声で鳴きます。

猫を飼っていることは
もう団地内にバレバレで、
親としては決断の時がきた
という感じです。

ある晩、母がゆっくり
諭すように私に言いました。

マリちゃんは可愛いけど、
これ以上は飼えないよ。
それが決まりだし約束だから。
明日、お母さんが、
自転車で遠い所まで行って
そっと放してくるからね。

小学4年生がすんなり
受け入れられるわけがありません。

拭いても拭いても
涙が溢れて止まりません。

どんなに悲しくても
そこはまだ小学生。
眠気はいつもの時間に襲ってきます。

私は目を泣きはらしながら
床につきました。

その時です。
マリちゃんは何かを
察したのでしょう。

いつもなら部屋の隅にある
座布団で寝ているマリちゃんが、
私の枕元にやってきました。

おさまりかけていた涙が
また溢れ出ます。

マリちゃんはそれを
ずっと見守っています。

私が泣き疲れて、
眠りに落ちそうな瞬間、
そっと私の耳元で何かを言いました。

マリちゃんは寝落ち寸前の私に
確かにこう言ったのです。

「うぉぅ・しゃぁ・しゅぅ・みゅぃ」

ん?

「うぉぅ・しゃぁ・しゅぅ・みゅぃ」

ん?ん?

「お・さ・し・み?」(※2)

Zz…

私は夢の中で気づきました。
あれはマリちゃんが
私を寝かせ付けるための
最初で最後の渾身の
あいさつだったのだと。


翌日、母から
マリちゃんは餌に困らないよう
隣町の魚屋のそばに放してきたと
言われました。

その後、風の噂で
マリちゃんはその魚屋の
看板猫になったとのこと。

~完~

ではでは。


※1:ハマチ(天地)真理(検定4級)
※2:お刺身→おさしみ→おやすみ(検定2級)