Column

2018年5月08日 待ち合わせと青春 〜身をつき刺すほどの熱い想い〜

おろかで幼稚、でも、何か切なくていじらしいドラマ第二弾。

と、その前に。

早く本題に入れ!って?

そう簡単には本題に入らないのが私。
人呼んで「ルビがない男」。
「ルビがない」→「フリガナがない」→「フリが長い」。

今回も若者の世代観と価値観を思い切り無視して昭和節全開でスタート。

携帯が普及する前の「待ち合わせ」において、「相手をひたすら待つ」
あるいは「相手をひたすら待たせる」というのは、そう珍しいことではなかった。

仕事のトラブル、交通のトラブル、体調のトラブル、竜に出くわすトラブル(それは虎舞竜)。

他にも時間の勘違い(14時を4時と勘違いしたり)、 改札口の勘違い、単なる寝坊や失念等々。
両者が一度家を出てしまったら連絡の取りようがなかった。

ハチ公前、アルタ前、ターミナル駅の改札口など、人集りの中で何時間も待つ。
疲れたから、少しその場を離れて座れるところで待とうと思っても、
離れた間に待ち人が現るかもしれないと思うと、やはり待つしかない。

根気よく何時間も待てる人もいれば
10分も待てない人もいる。

一昔前の待ち合わせには、それなりの忍耐力と緊張感を要した。

今は「ごめん、遅れる」と1本メールさえ入れれば、
少なくとも相手をひとところで何時間も待たせるという事態は回避できる。
便利になったね。でも、これではドラマは生まれないんだな。


さて、ようやく本編。

タイトル:「待ち合わせと青春〜身をつき刺すほどの熱い想い〜」
出演:私、ひとみちゃん、私のおふくろ

1980年台前半、五月晴れのある日のこと。

これはデートなのか。

男女数人で遊園地とかに行ったことはあるが、 今日はひとみちゃんと私だけ。
女子と1対1で出かけるのは生まれて初めてだ。
間違いなくデートだ。

二人とも地元なのに、 待ち合わせは急行電車で1時間もかかる巨大な街の巨大なデパート。
その8階にあるレコード売り場にした。

それが悲劇の始まりだった(ヒゲキ、感激!)。

なぜそんなところで待ち合わせたかって?
それは、地元で誰かに見られたくなかったのと、レコード売り場で、
ひとみちゃんに会ったらすぐに 「ちょっと待って」とさり気なく甲斐バンドのレコードを買って、
「テープに録音したらひとみちゃんにも貸してあげるよ」という予定でいたから。
当時の自分としてはこの上ない演出だと思った。
気に入ってくれたら次は一緒にコンサートへ、というシナリオまで描いていたのだ。

さて、大きな問題は何を着ていくかだ。
大都会でのデート。それなりの身なりで行かなくては。

鏡の前で一人ファッションショーが始まった。

「ダメだ、どれも気に入らない」

脱ぎ捨てられた1000〜2000円程度の服の数々。
何を血迷ってこんな服ばかり買ってしまったのか?
これだったら、学ランかジャージで行ったほうがマシだ。

と、少しばかり焦り始めた時に閃いた。


「新しい服を買って途中で着替えればいい」


おふくろに 「今日は遠くまで行くから余分にもう2000円くれ」と言った。
なぜか上目線。反抗期だからね。
おふくろも少し不本意な顔をしていたが、さほどの抵抗もなく2000円を上乗せしてくれた。

ひとまず、部活で着用しているアディダスのTシャツ姿で、
いつもお世話になっている地元のひなびたデパートに向かった。

二段飛ばしでエスカレーターを駆け上がり、3階の紳士服売り場に到着。
電車の時間まで40分。焦ることはない。

ただ、ひとみちゃんと同じ電車にならないよう、 私が選んだのは待ち合わせ時間に丁度間に合う電車だ。
これに遅れることはあってはならない。

ひとみちゃんはその性格からして、 余裕を持って家を出るはずだ。

服選びを始めた私の目に留まったのは、 少し大人びた薄いグレーのシャツ。
甲斐バンドのレコードを買うような男は、 これくらい渋くていいだろう。

これで決まりさ!
頭の中でマッチのハイティーンブギが流れた。

気づけばあまり時間がない。
レジを通してデバートのトイレへ直行。
和式のトイレ。慌てて買ったシャツを便器に落としたらデートどころではない。
慎重に封を開けてシャツを取り出した。

ところが、そのシャツ、 折り目という折り目が幾本ものピン(針)で止められている。

(薄々オチがわかった人もいるかな)

服とはいえ、こんなの今の時代だったら訴えられる。
危険極まりない。

取り外しても取り外しても現れてくるピン。家の裁縫箱にだってこんなに針は入っていない。
焦りと苛立ちが募る。

ようやく全てのピンを取り外し、アディダスのTシャツの上から袖を通した。

時間がない。
駅までダッシュだ。

「間に合った…」

無事に予定の電車に乗ることができた。
車両にひとみちゃんの姿もない。

ようやく落ち着きを取り戻し、 座席に身を預けた時、
何かに刺されたような痛みを腰の上あたりに感じた。


「イテッ!」


すぐに座席を見たが、何も見当たらない。

私を突き刺したものが、 シャツから取り外し残したピンだったことに気づくのに 5分くらい要した。

痛みと違和感がおさまらないので、 指先で腰上あたりを探ると僅かな異物感が。
そう、取り外し損ねたピンが、 座席に身をあずけた時に刺さったのだ。

しかも、しばらく放置していたため、 新品のシャツに血のシミができている。
大きさにして直径3センチくらいか。

最悪だ。記念すべき初デートに、 血のシミをつけた服を着ていくのか。
新たに服を買い直す時間もお金もない。

竜に出くわす以上のトラブルだ。
どうしたらこの窮地から抜けられるのか。
気を失うほどに頭をフル回転させた。


「そうだ」


この電車は途中駅で特急電車の通過待ちで3分停車する。
その間にホームにある水道で洗えばいい。
部分洗いだからすぐに乾くだろう

電車は特急の通過待ちをする駅のホームに滑り込んだ。

ホームにある水道ヘダッシュ。
ダッシュばかりだ。

幸い脱がなくても体をよじってシャツを引っ張れば、 シミのついた箇所は体の前にくる。

私は水道の蛇口をひねった。
ところが焦りのためか、勢いよくひねりすぎた。

当時、公共の場所に設置されている蛇口のほとんどはひねるタイプ。
先端は象の鼻のようになっていて、水の出る向きを手動で360度変えられる。
その時は「象の鼻」が上を向いていることに気づかなかった。
45度上の角度で飛び出してきた水は、 私のスボンの股間周辺を激しく濡らした。

血のシミどころではない。

初デートに股間部分を濡らしたズボンを履いていくのか。
しかもベージュ色のズボンだから濡れ染みがやたらに目立つ。
半径3センチどころではない。30センチくらいあるシミだ。
お漏らししたようにしか見えない。
もういっその事、竜でも出てきてくれ。

とりあえず血のシミを洗い、 腹痛を装いながら、前かがみに下腹部辺りを手で覆いながら電車に戻った。

乗っている間も前かがみで腹痛を装った。
そんな私を心配して声をかけようとしている人もいたが、知ったこっちゃない。
とにかく残り20分の間に、自分の腹と手の体温でズボンを乾かすしかない。
シャツの方はおそらく乾くだろう。

しかし、そんな涙ぐましい努力の甲斐もなく、 ズボンは半分も乾かないまま、終点の巨大駅へと到着。

前かがみの体勢のまま、 駅のトイレに入った。
この際、約束の時間に遅れるのは仕方ない。
股間部分が濡れているズボンを履いていくよりはマシだ。

濡れたズボンとアディダスのTシャツを脱いだ。
Tシャツで濡れている股間部分をサンドし、パンツ一丁の姿でバンバン叩いた。
Tシャツは白だから少々濡れても目立つことはない
Tシャツに吸収力がなくなってきたので、 トイレットペーパー(以下、TP)を探した。
ところが当時は、TPを常設してあるトイレが少なく、
販売機で有料TPを買う必要があった。

一度シャツと生乾きのズボンを履いて、トイレ入り口にある販売機でTPを購入。
再びズボンを脱いで、TPを押し当てた。

「乾け〜、乾け〜」もう、念で乾かすしかない。

駅のトイレで濡れたズボンと格闘すること30分。
ようやく目立たない程度になったので、ダッシュで待ち合わせ場所へ向かった。

ダッシュばかりだ。
バスケット部でよかった。

約束の時間に遅れること40分、
まだズボンはなんとなく湿っぽいが、
なんとか待ち合わせ場所のレコード売り場にたどり着いた。

ひとみちゃんはいるだろうか。
早めに着いていたことを考えれば、 1時間は待たせたことになる。




「…いた」

ひとみちゃんは健気に待っていた。
でも、さすがに少し機嫌が悪そう。

それはそうだ。
さして広くもないレコード売り場を1時間もウロウロしていたのだ。
なんの言い訳も浮かばない。

着て行く服が決まらず、
地元のデパートで服を買って、
デパートのトイレで着替えようとしたら
服にたくさんピンが刺さっていて、
全部取りきれなくて、
電車に座ったらそのピンが腰に刺さり
シャツに血のシミができたから
それを途中駅で洗おうとしたら
水が勢いよく出てきて股間を濡らして、
それを乾かすために、
駅のトイレでパンツ姿で濡れたズボンを
叩いて乾かしていたら遅れちゃった

とは言えない…。


さすがに、この日はグダグダだった。
大幅に遅れたことに引け目を感じてしまったことに加え、 目まぐるしく襲ってきたトラブル対応で、
心の余裕もすっかり失っていた。
描いていたデートのシナリオは台無しだった。

お互いスタートのつまづきと、疲れと、緊張で会話も弾まない。
お茶でも飲もうと思ったが大都会の喫茶店は、どのお店も混んでいて値段も高い。
お客も大人ばかりで、私たちのような幼いカップルの入店を拒んでいるように感じた。
恥ずかしながらそれまで一度も喫茶店に入ったことがなかった。
苦いばかりのぬるいコーヒーも、
氷ばかりの気の抜けたコーラも、
都会の喫茶店では500円以上することも知らなかった。

結局、マックでコーラだけ飲んで帰った。

そんなひとみちゃんと私がこの後どうなったかは 想像にお任せするとして、
教訓ですよ、教訓。

急がば回れ。
備えあれば憂いなし。
慌てる◯◯は貰いが少ない。

このときの教訓は、 それなりにその後の人生に生きているから、 無駄ではなかったのかな。

ではでは。

(ドラマ第三弾は未定)